VEGFトラップ | きくな湯田眼科-院長のブログ

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横浜市港北区菊名にある『きくな湯田眼科』

これまでいろいろな抗VEGF抗体が考え出されてきたわけですが、これらは本来、悪性腫瘍の血管新生を抑え、抗腫瘍薬として開発されたものです。悪性腫瘍は血管新生を呼び起こし、これらの血管から栄養の補給を受け増殖することから、その栄養源を断ち、腫瘍の増殖を抑えるのが目的でした。


マクジェン、アバスチンを初めとしたVEGF 阻害剤はVEGFそのものの遺伝子解析やモノクロナル抗体化から生み出されたものですが、VEGF受容体の解析から生み出された薬物があります。


それはVEGF-Trap と呼ばれるものです。これは2002年Holash らによって発表されました。米国Regeneron Pharmaceuticalsが製造メーカです。



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その工程は彼らの論文から拝借した図の通りで、まず、VEGF受容体のVEFGR-1から、その細胞外成分の7つあるIgドメインから最初の3つを取り出し、これとヒトのIgG1のFc成分(crystallizable fragment : 定常領域)と結合させたものが親(parental)VEGF-Trapとなっています(図の上から2番目)。親VEGF-Trap のbasic stretch を取り除いたものがVEGF-Trap β1で、さらにこれからIgドメインの1番目を取り除いたのがVEGF-Trapβ2(4番目の図)です。次にVEGF受容体のVEGFR-2の細胞外成分のIgドメインの3番目を取り出し、最後にVEGF-Trapβ2の3番目成分と交換しVEGF-Trapが完成します(一番下の図)。


VEGF-Trapは他のどのVEGF抗体よりVEGF結合能が高いとされています。その製造過程からヒトに対しての抗体となっていますが、種を超えてトリなどにも作用すると報告されています。問題はその遺伝子操作過程でアデノウイルスを使用していることで、これによる肝障害などの副作用が心配されますが、報告では製品化されたVEGF-Trapでは安全性が確認されたということです。(親VEGF-Trapでは毒性が見られるそうです)


また、VEGFR-1とVEGFR-2の2つの成分を含むため、VEGFRにつくVEGFファミリーのPIGF(胎盤由来増殖因子)にも付着し、より強い抗血管新生効果が期待されます。現在この薬は加齢黄斑変性に対して治験中ですが、すでにルセンティスを上回る良い成績が報告されています。やがて近い将来、我が国でも使用されることになると思われます。


これとはまた別に、RNAインターフェアランスという現象を用いた薬物も開発されています(siRNA : small interfering RNA)。


この現象は、細胞内に2本鎖RNAを導入するとその相同配列遺伝子のmRNAが分解され発現が阻害される現象で、導入するRNAは全領域は必要なく、エクソンであればよいとなっています。


VEGF mRNAのsiRNAがいくつかのメーカーにより製品化されており、すでに硝子体投与する治験もスタートしており、その報告によると血管抑制効果が見られています。


実際には、血管抑制効果を有するsiRNAは21塩基対であれば特別にVEGFのエクソンでなくとも良いとのことです。このことから、どうもこれまで見られたsiRNAの血管抑制効果は、VEGF発現阻害作用ではない別の機序によることが想定されます。


また、siRNAに関しては、それ自体がVEGFの発現を阻害しているのではなく、血管内皮細胞表面のTLR-3(Toll様レセプター)にsiRNAが結合し、これを活性化し、免疫学的な効果により血管新生を抑制しているとの論文があります。


TLR-3受容体はいろいろなヒト内皮細胞に見られ、siRNAによる活性化は様々な組織障害を引き起こす可能性が指摘されています。また、特定の人ではドライタイプの黄斑変性を起こすことが認められています。このようなわけで、アイデアとしては良いのですが、問題も多くあり、現時点ではわが国に導入されるかどうか、わかりません。