『源氏物語』第二百六十五話 ~若菜・上(1) | YUKARI /紫がたりのブログ

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紫がたりのブログ-若菜上1

六条院への行幸のあと朱雀院は体調が芳しくなく、臥しておられるということです。


元来院はお体が丈夫でないことを周りも気付かっておりましたが、この度のご病気は今までとは違ってなかなか平癒されません。

院の御心も弱くなり、このまま儚くなる前にかねてからの願い通り仏門に帰依することを強く望まれております。

朱雀院の母君、大后が未だご健在であるのが気がかりでそれまで言い出せぬ望みではありましたが、せめて御仏に導かれてあの世へ旅立ちたいとの仰せです。


しかしながら院にはこの世への未練とも言うべき愛する御子がおられました。

朱雀院の御子は東宮と四人の姫宮がおいでになります。

東宮は成人されその地位は安泰ですが、姫宮の四人の中でも女三の宮は頼るべき母を亡くしておりました。

そこで父まで出家しては誰がこの姫宮を守るのか、というのが院の一番の心配事なのです。


女三の宮の母君はかつての藤壺の中宮の妹宮にあたられる方でした。

本来ならば后に立ってもおかしくない御方でありましたが、弘徽殿大后の妹君・朧月夜の尚侍のご威勢が強く、朱雀院の寵愛を受けながらも気圧されて、無念のうちに亡くなりました。

院はその御方の面影を遺した女三の宮を掌中の珠のように可愛がっておられます。


女三の宮は御年十三歳。

小柄でまだ幼さの抜けぬ美しい姫です。

この頼りない姫に思いを残しては仏道にも妨げになる上に、自分が儚くなるようであればこの姫はどうして生きていけるものか、と日夜嘆かれておられます。

そのように御心を悩ませられるので、近頃では病も重く、御簾の外へもお出にならないということです。


内親王は結婚をするべきではない、というのが習いです。

時として帝の名代として伊勢の斎宮や賀茂の斎院として神にお仕えする役割を担うからです。

しかしそのお役は必ずまわってくるわけではありませんので、降嫁という形で結婚をされる場合があります。

院はどなたか将来性のある若者に女三の宮を降嫁して、先々も守っていってもらいたいと考えておられるのです。


そんな折、夕霧の中納言が源氏に代わって院のお見舞いに伺候しました。

夕霧は美しく控えめで、将来も有望な貴公子です。

院はこの君が女三の宮の夫となってくれればよいが、と内心思いましたが、夕霧は太政大臣の姫と結婚したばかりなのでこの話を受けてくれないでしょう。


「夕霧よ、あなたを見ていると若い頃の源氏を思い出すね。亡き父院があれほど源氏をないがしろにしてはならぬと遺言されたのに須磨へ追いやるような形になってしまった。恨みつらみもあろうはずなのに源氏はそんなことは素振りもみせずに慕ってくれる。それどころか東宮の後見としてもよく気を配ってくれているよ。ありがたいことだね。この間の紅葉の宴は楽しかった。源氏にもう一度会いたい、そう伝えてはくれぬか」


朱雀院の弱々しいお声を夕霧は気の毒に思い、少しでも御心を慰めてさしあげようと言いました。


「過去のことは私にはわかりませんが、父はいつでも院を敬愛しております。准太上天皇と身分が重くなったので無沙汰がちなのを残念に思われているようです。院の思し召しは必ずお伝えいたします」


まっすぐな瞳をしたなんと心優しい青年であろうか。

院はこの君が結婚する前に話を持っていくべきであったと悔やまずにはいられません。


「時に夕霧はいくつになるかな?」

「はい。二十歳にはまだ少し足りません」

「太政大臣の姫との縁談がこじれていたと聞いたがようやく念願がかなったのだね。おめでとう。娘を持つ父としては羨ましいような、妬ましいような・・・」

そう言いさして院はお言葉を止められました。


夕霧は内心どういう意味かと訝しみましたが、院が女三の宮のご降嫁を考えられているという話を聞いたことがあったので、そのことかと思い当たりました。


迂闊な返答はできないもので、

「はい。私の至らなさで縁もなかなかまとまりませんで、ようやくのことでした」

とだけ申し上げました。



この『源氏物語』は私がアレンジして書いているもので、人物描写なども私の想像などが重きを占めています。

また失われた巻についても想像で描いているので、オリジナルのものとは違います。

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