テニスにおいて、レシーブ側よりサービス側が若干有利なことは、よく知られている。
同様に将棋でも、後手よりも先手の方が勝率が若干高いことが、長年の戦績データから知られている。
指し手としての個人的な感想だが、先手の方が序盤作戦の自由度が高い。後手番になると、序盤から先手の指し手に対応を迫られ、窮屈に感じることが多い。
しかるに本局は、後手番のハンデを乗り越えて完勝できた初めての一局だったかもしれない。
本局のポイント:攻めを慌てず「溜めた」呼吸
===================================
【対局日】昭和58年2月8日(将棋部順位戦BII)
【対局場所】某大学 将棋部部室
【駒割り】平手
【持ち時間】40分(以後一手1分)
【対戦相手の棋力】不明
【当方の手番】後手
【戦型】5筋位取り(vs三間飛車)
【手数】82手
【結果】後手の勝ち
===================================
【第1図】前哨戦開始の局面
先手の作戦は三間飛車だった。2020年頃において流行している有力な作戦が、この時期(昭和58年)にもよく指されていたことは興味深い。
対して後手番の当方が選んだのは、5筋位取り。三間飛車に対する有力な作戦と、有吉九段が著書で取り上げていたのをヒントに採用した。
第1図は、一歩交換でポイントを稼ぎにいった局面。先手も工夫して対応したため、徐々に局面が動いていく。
【第2図】踏み込んだ局面
第1図以降の先手の対応に疑問があり、お互いの形に差がついた局面で、満を持して踏み込んだ局面が第2図。一見して、後手の飛車と角が伸び伸びとしていて、ペースを握っていることがわかる。
以下、数手進んで、第3図。
【第3図】落ち着いた一手を指した局面
第2図以降の応酬で差がつき、すでに後手優勢になっていたが、慌て者だった当方は、勝ちを急いでうっちゃられることも多かった。
第3図の直前の局面では△5六桂と金を取ろうかと思ったが、▲1一角成と攻めこまれて、紛れてしまう。
ここでは先手からの急な攻め筋がない。そう気がついたので落ち着いて、8四の地点で遊んでいた飛車を7四に移動した。次の狙いは飛車を一枚捨てて角を二枚取ること。しかし、それがわかっていても先手には防ぐ術がなかった。
この△7四飛は、本局で一番印象に残っている指し手。急がずに「溜めた」呼吸で指したのは、この手が初めてだったかもしれないからだ。
以下、数手進んで、第4図。
【第4図】即詰みの局面
第4図の直前に▲4五歩と指された。桂が助からない(△4五同銀は▲同桂で銀損となり、桂損よりひどい結果になる)ため、取られるなら少しでも敵陣を乱そうというつもりで△3六桂と跳ね出した。
指した後に読み返したら、何と即詰みになっていたので、正直驚いた。
△3六桂以下の詰め手順は、こうなる。
▲同金△3九龍▲同玉(実戦では、この手を指さずに投了)△5七角▲2九玉△3九金▲2八玉△3八金▲同玉△4八角成▲2八玉△3九角▲2九玉△3八銀まで
=================【昔の記録に書かれた「まとめ」】=================
本局は、対三間飛車に有力な中央位取りの構えから、相手のミスに乗じて自然に有利を拡大し、最後は一本道にもちこんで完勝したものである。特に中終盤の運びが絶妙だった。「優勢なら単純に、非勢なら複雑に」の格言どおり、相手の指し手をわかりやすくして、あっという間に寄せの形にもちこんだ。対振り飛車の会心譜である。
(平成3年8月11日)
==========================================================
今振り返ると、後手が一方的に押し切ったワンサイドゲームに見えるが、当時の自分にとっては、短兵急だった棋風(実力不足?)から、一歩階段を登った感じがしていた。その意味で、印象に残る一局である。
【棋譜】
下記のリンク先をご覧ください。
(2022年8月18日)