昔の自戦記を読み返してみると、今はすっかり指されなくなった戦法に出会って、レトロな気分になることがある。
本局がまさにそれ。対中飛車の戦法として、昭和40年代頃にプロ棋戦でよく指された「4六金戦法」を指した記録だ。
当時のトップ棋士の一人であった米長九段の著書から、自分は「4六金戦法」を聞きかじっていた。緩急自在に指せるのがこの戦法の魅力だが、本来守りの駒である金を前線にオーバーラップさせるだけに、力がないと指しこなすのが難しいと感じる。今の自分は、とてもこの戦法を採用する気になれない。
本局のポイント:敵陣の急所をついた「角と桂」
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【対局日】平成2年7月22日
【対局場所】東京将棋会館道場
【駒割り】平手
【持ち時間】無制限
【対戦相手の棋力】2段
【当方の手番】先手
【戦型】4六金(vs中飛車)
【手数】137手
【結果】先手の勝ち
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序盤は後手にミスがあり、一歩を得した先手が若干リード。不利に追い込まれた後手は、振り飛車にもかかわらず、先に手を出してきた。それが第1図。
【第1図】開戦時の局面
中央突破を図る後手に対し、先手は飛車先で桂交換の捌きを狙う。
勝負所を迎えた一連の応酬の中で、後手が一瞬弱気になったため、先手がチャンスを迎えた。
それが、第2図。
【第2図】チャンスの局面
第2図で、6五角が八方睨みの名角。
後手も4二金打と必死に粘るが、ここで両取りの5四桂ではなく、7五桂と後手玉の最弱点に照準を合わせたのが会心の一手。後手に持ち駒がないため、受けが利かない。
以下、後手も懸命に粘ってきたが、自然に駒得できた先手は、落ち着いて着実に迫っていく。長手数になったものの、最後はぴったりの即詰みに追い込んだ。
=================【昔の記録に書かれた「まとめ」】=================
本局は、中飛車破りの会心譜である。中飛車は受けが強いので、強引な攻めが通じにくく、わたしの苦手である。しかし、本局は4六金戦法から、じわじわと前進する方針で指した。無理せず、相手とのバランスを保つように心がけた。結果的にこれが成功したように思う。
本局のハイライト は(55手目の)6五角である 。これが八方睨みの名角で、直後の7五桂を生み、一気に優勢に持ち込んだ。後は、相手がもがいても、急所を抑えながらじわじわ迫り、起こさずに寄せ切った。
しかし、今振り返ってみると、ミスが目立つ。(49手目の)5二歩は好手だが、2五桂のハネ出しの前に利かすべきだった。5六桂とされていたら、分が悪い。
(平成3年9月29日)
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6五角以降は余裕を持って進められたが、それまでの中盤戦はツバ競り合いだっただけに、勝ちを拾えたのは運が良かったというべきだろう。今振り返ると、拙い指し手が目につき、苦笑いせざるを得ない。
【棋譜】
(2024年1月20日)