4/23に掲載したウティナン君の意見陳述全文、大変な反響がありました。アメブロやFacebookでのコメント、あるいは直接お電話いただいたり、メールいただいたりしたものの全てが励ましの言葉でした。本当に感謝に堪えません。

ただ、24日に、ハフィントンポストに転載された記事へのコメントには「法治国家なんだから、法律に従って帰るべき」という趣旨のご意見も少なからず見受けられました。

それらを拝見して感じたことを、以下、書かせて頂きます。長文になりますが、申し訳ございません。

1 「法治国家」の意味

「法治国家」という言葉を使って、彼らは法律違反をしたのだから(気の毒かもしれないが)帰るべきだ、というコメントを寄せた方々は、おそらく、「法治国家」を法律のある国だ、という意味で使われているのだと思います。

ですが、本来、「法治国家」というのは、本来「行政および司法があらかじめ議会の制定した法律によって行われるべきであるという法治主義による国家。」という意味です(コトバンクより)。

つまり、法律によって縛りを掛けられるのは、個人では無くて、国家の方なのです。国家権力の暴走を止めるための概念なのです。

2 在留特別許可ガイドラインの積極要素しかない

では、今回、ウティナンくん達に在留特別許可を認めなかった国の対応は、「法治国家」に相応しいものと言えるでしょうか。

在留特別許可は、「法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があるとき」(入管法50条1項4号)に認めることができるとされています。

しかし、これだけでは具体的にどんな場合に認められるのか分からず、判断が恣意的になってしまいかねません。そこで、透明性を確保する為に、法務省は平成18年に在留特別許可に係るガイドラインというものを公表しました。現在は、平成21年の改訂版が用いられています。

ここには、在留特別許可をするかどうかに当たって考慮すべき積極要素と消極要素が掲げられています。

ウティナン君達の件ではじめてご相談を受けたとき、このガイドラインに照らしてみて積極要素はいくつも挙げられるのに、消極要素が一つとして見当たりませんでした。

もしかすると、ご本人達が把握していない消極要素があるのかもしれないと思っていましたが、裁判になっても、国は、ガイドラインに書いていないことを無理矢理消極要素として主張してきました。

透明性を高める為に公表されたはずのガイドラインです。ここに記載されていないことが消極要素として考慮できるのであれば、透明性もなにもあったものではありません。

国は裁判では、ガイドラインはガイドライン、それにとらわれずに裁判では別の消極要素を主張できるんだ、ということを言っています。

これが「法治国家」のすることなのでしょうか?

3 法の下の平等

また、憲法14条1項は法の下の平等を保障していますし、入管法も1条で「出入国の公正な管理」を目的として掲げています。「公正」というのは、公平で偏っていないことという意味ですよね。

ですから、入管法に定められている在留特別許可の制度も、また、公平で偏りなく運用されることが求められるのは当然のことです。

では、これまで、ウティナン君一家と同様の状況にあった人たちには在留特別許可は認められなかったのでしょうか。

法務省入管局が在留特別許可を認めた事例、認めていなかった事例をウェブページで公表しています。

ここの2の(3)外国人家族の場合というのをご覧ください。

発覚理由、違反態様、違反期間、家族構成、許可内容、その他の特記事項の別で表に整理されています。

発覚理由では、自ら出頭した事実を積極事情とすることがガイドラインに明記されています。

違反態様では、不法入国を消極事情とすることがガイドラインに明記されています。

違反期間では、滞在期間が長期間に及び,本邦への定着性が認められることが積極事情としてガイドラインに明記されています。

ウティナン君とお母さんの各事情は、

発覚理由 自首出頭
違反態様 不法滞在(不法入国ではない)
違反期間 母親は処分時で18年9か月
家族構成 日本で出生。処分当時14歳。日本の中学校に通っている

ということになります。

法務省の公表事例を見てみると、発覚理由が摘発が潜行したり、違反態様が不法入国だったり、違反期間がウティナン君のお母さんより短い人、家族構成ではウティナン君よりも年下の子どもがいる家族でも在留特別許可が認められていることがおわかり頂けると思います。

これで「公正」な法律の適用をされたと言えるのでしょうか。

4 おわりに

確かにウティナンくんとお母さんは、在留資格がないまま日本に滞在をしたという点では、入管法違反の事実があります。

ですが、彼らは、入管法という法律に定められている在留特別許可を求めるため、自ら出頭しました。

それに対して、自ら透明性を高める為に作成したはずのガイドラインに書いていない事情を持ち出して国は在留特別許可を認めませんでした。

そこで、彼らは日本の行政事件訴訟法という法律に則って、裁判を起こし、その是正を求めているのです。

日本が法治国家というのであれば、自ら示したガイドラインを守るべきです。同じような状況にある人との公平な取り扱いをするべきです。

それができていない、日本が「法治国家」とは呼べない状況だったからこそ、ウティナン君達は今回裁判に訴えるしかなかったのです。

ですから、日本が「法治国家」であることを理由に、ウティナン君達をタイに追放すべきというご意見は、いかがなものかな、と感じました。

長文お付き合い頂き、ありがとうございました。