THE YELLOW MONKEY『Sparkle X』感想&レビュー【火花を飛ばし輝き続ける】 | とかげ日記

とかげ日記

【日記+音楽レビューブログ】音楽と静寂、日常と非日常、ロックとロール。王道とオルタナティブを結ぶ線を模索する音楽紀行。
X(旧ツイッター)ID : @yoyo0616



●火花を飛ばして輝き続ける

日本を代表するベテランロックバンドイエモンこと、ザ・イエローモンキー(THE YELLOW MONKEY)の10枚目のアルバム『Sparkle X』(読み:スパークルエックス)のレビュー。タイトルのXは10枚目であることが由来です(ローマ数字)。

《収録曲目》
1. 「SHINE ON」
2. 「罠」
3. 「ホテルニュートリノ」
4. 「透明Passenger」
5. 「Exhaust」
6. 「ドライフルーツ」
7. 「Beaver」
8. 「ソナタの暗闇」
9. 「ラプソディ」
10. 「Make Over」
11. 「復活の日」    

つい先月にも東京ドームで公演したことが話題になったイエモン。イエモンに関してはライブガチ勢ではなく、音源エンジョイ勢である僕のTLにもイエモンのライブの感想が流れてきた。

スナックやラブホテルのような猥雑としたバイブスで、アリーナやスタジアムのようなスケールの大きな空間を満たせるのは彼らが唯一無二だ。スタジアムで歌っていても一人一人の聴衆に届くような切実で意味性に富んだ音楽だと思う。

僕はイエモンをかなり高く評価している(評価というと上から目線だけど)。彼らのようなアーティスティックとエンターテイメントの狭間でせめぎ合っているバンドは好きですね。

イエモンにはプロフェッショナルにロックミュージックを演奏している4人組だという印象がある。ロックとは何たるやを知っている人による音楽だ。

しかし、プロフェッショナルだけでは終わらない。彼らの歌には、このメッセージを伝えたいという意味性があるのだ。

意味性といえば、たとえば、名曲「JAM」の以下の歌詞。

あの偉い発明家も 凶悪な犯罪者も
みんな昔子供だってね
外国で飛行機が墜ちました ニュースキャスターは嬉しそうに
「乗客に日本人はいませんでした」
「いませんでした」 「いませんでした」


もうこれだけでシビれますよ。今の社会では考えられないけど、キャスターは嬉しそうに「乗客に日本人はいなかった」って言っていたもんな。こういうことを伝えてきた先人達がいるからこそ、社会はもっと優しくなっていけるのだ。(安易なポリコレやキャンセルカルチャーには注意しないといけないけど。)

日常や社会に対して本音を語る手つきはミスチルや笹口騒音(うみのてetc)と並び立つ冴えと生々しいリアリティを感じさせる。ボカロのような意味性のない歌詞とは真逆だ。(ボカロにもハッとするような歌詞の曲もあるし、言葉の繊細なパッチワークでできているアーティスティックな歌詞もあるので一概には否定できないが。)

イエモンという名前からして示唆的だ。白人が黄色人種のことを黄色い猿(THE YELLOW MONKEY)とさげすむことを逆手に取る大胆で倒錯したバンド名に思える。

そして、彼らの歌は意味性と共に活力もある。若い頃はもちろん、現在でも吉井さんの歌には力がある。また、「永遠の中に生命のスタッカート」(「球根」)を鳴らすバンドの4人の演奏には不思議な光沢と濃厚な味わいがある。彼らの心の底の愛に張り付くような演奏だけで、僕の魂もみるみる賦活されてくる。

又吉直樹『火花』のように、火傷するほどの熱量を伴った一瞬の生命力のきらめきをすくいとる音のドラマ。イエモンのこの最新作のタイトルも「Sparkle(火花が飛ぶような輝きを指す言葉)」という単語が入っているしね! 青春(SO YOUNG!)やセックス(身体と身体で強く結びました)のメタファーを散りばめて、僕らの心も彼女らの心も昇天してしまう。

後続のバンドへ与えた影響も偉大だ。パッと思いつくのは毛皮のマリーズ。ロックで表現したいことにイエモンとマリーズは共通する側面がある。いくつかのマリーズの音楽は、イエモンのロックンロールソング「マリーにくちづけ」の換骨奪胎だ。(バンド名にも「マリー」が含まれているし、意識的?)イエモンの音楽はリスナーだけではなく、ミュージシャンの背中も優しく押していたのである。

イエモンを気に入った方はぜひ、毛皮のマリーズとそのフロントマン(志磨遼平)のソロプロジェクト「ドレスコーズ」(結成当初は複数メンバーのいるバンドだった)を聴いてほしいですね。イエモンと毛皮のマリーズはロンドンでレコーディングしたことがあるのも共通しているし、サウンドへの問題意識も重なるところがある。

今回、このレビューを書くにあたって、一枚目から最新作の本作までひと通り聴いてみた。

イエモンの初期は音楽性に大きく影響を受けたデヴィッド・ボウイはもちろんとして(直接的な影響として1人の男の一大叙事詩である『ジギー・スターダスト』に倣った『jaguar hard pain 1944〜1994』も発表している)、X JAPANやルナシーの核心と共通するもの(あの妖しげな曲調)を感じる。

しかし、イエモンの初期は売れなかった。それは、特定の層への求心力が強いぶん、アクが強いため、聴く人を選んだからかなと思う。表現の位相では、フジファブリックやレミオロメンの初期と近いものがあると思う。アーティスティックで匂い立ち込める、でも売れない、そのあと売れた、あの感じね。

そして、1995年に発売された、彼らのディスコグラフィーでは中期にあたる『smile』と『FOUR SEASONS』でグッと音楽性が開かれる(拓かれる)。メロディと曲のキャラクターが外向きに力強く輝きだした。

その後、1997年にリリースされ、ヒットチャート1位を獲った極めつけの名盤が『SICKS』だ。個人的な好みでは、「I CAN BE SHIT, MAMA」という曲で語呂合わせで「アッカンベーしたまま」と歌うのが面白かった。こういうナンセンスなバカバカしさを奔放に演奏することに、類まれなるバイタリティを感じる。音楽的腕力ですべてをねじ伏せるような無敵の全能感!

そこからは『PUNCH DRUNKARD』、『8』と名盤を連発。しかし、2001年1月8日に東京ドームでの公演終了後活動を休止。その状態のまま2004年に解散した。だが、2016年1月8日(活動休止した日付と同じ!)に再集結を発表。そして、2019年に『9999』をリリース。

『9999』は過去のとかげ日記(このブログ)で取り上げたが、ひとつ撤回させていただきたい。

『ただ、「砂の塔」にしても、そのほかの曲にしても、全盛期ほどの曲の良さはない気がするね。』

…と僕は書いたが、聴き込むにつれて印象が変わっていった。『30 Years 30 Hits』というベストアルバムで『9999』と往年の彼らの名曲と一緒に並べられても遜色ない。

さて、本作『Sparkle X』について見ていこう。妖しくて艶やかなイエモンワールドが繰り広げられているが、活動休止前まで色濃かった猥雑な猥褻さは影をひそめている(軽いものならまだあるが)。そして、本作はとりわけ、ボーカルの吉井和哉さんのロングトーンが美しいのでそこにも注目して聴いてほしい。また、イエモンならではのユーモアも以前と変わらず楽しい。「月額無料さ 今ならお得さ/あるのは愛だけさ」(#4「透明Passenger」)。こんな歌詞を歌ってサマになる人はめったにいないのではなかろうか。

リード曲の#3「ホテルニュートリノ」からしてイカしてる! シャッフルのリズムと楽器隊の鉄壁な演奏が華やかな陽気を運んでくる。ドミノが一瞬で崩れていくような可能性のスリルも、それと隣り合わせであるカジノ的な愉悦もある。アレグロのテンポ(スリル)と強い歌メロ(愉悦)が即効性があって気持ち良いね。



オープナーの#1「SHINE ON」。曲名は「輝き続ける」という意味の英語。アルバムタイトルと相性が良い。ゴキゲンでいて大人の余裕も感じさせる曲だ。

#2「罠」。イントロのソリッドなギターからしてシビれる。タイトで攻撃的な曲なのに、この包容力を誇るのはイエモンマジックの罠。



管楽器なしのジプシーミュージックのような#6「ドライフルーツ」。この味はイエモンにしか出せないエスニック風味。

#8「ソナタの暗闇」の無骨としたガレージロックの演奏に唸らされる。シンプルだからこそ、趣がある一曲だ。



前述した、「I CAN BE SHIT, MAMA」のような陽気なナンセンスソングである#9「ラプソディ」。(しかし、ナンセンスに見えて何かを風刺した曲なのかもしれない。イエモンはバカなフリをして知的なバンドであるから。あるいは、知的だけど音楽の面では内なるバカを露出しているだけなのかもしれない。)

ギターの菊地英昭が作詞作曲した王道のロックサウンドの#10「Make Over」。同じく菊池さんが作詞作曲した「Horizon」(前作アルバムに収録)も良い曲だ。普通に良い曲を作れる菊池さんはソングライターとして秀でている。「Make Over」というタイトルは「作り直す」や「イメージチェンジ」という意味であり、歌詞中の「Pura vida (プラ・ヴィーダ)」とはスペイン語で「純粋な人生」という意味だそうだ。歌と演奏に憶えるどこまでも前を向く意思はまさに純粋な生き方!

そして、ラスト#11「復活の日」  。このアルバムの格を上げるような佳曲だ。タイトルと歌詞にある「復活」と「restart」は、前曲のタイトルが「Make Over」(やり直す←作り直す)であるのと親和的だ。吉井さんの癌からの復活にも掛けているはずで、だからこそ切実に鳴り響く曲である。

アルバムを駆け足で見てきたが、良作だと思う。『9999』のように、聴きこむにつれて傑作だと思うようになるかもしれない。彼らの過去の名曲に「SPARK」があるが、火花(SPARK)で散って終わらずに、SPARKの現在進行形で輝き続ける境地が本作『Sparkle X』なのだ。火花の火の勢いはとどまることを知らず、花は満開で咲き続ける。

最近はイエモンばかり聴いている。抗菌(拘禁)された世の中のおいて、彼らが放つ奔放で猥雑なエネルギーはクリティカルなカウンターになるし、僕も高揚される。

Score 9.3/10.0

💫関連記事💫こちらの記事も読まれたい❣️
THE YELLOW MONKEY『9999』感想&レビュー
👆前作アルバムのレビューです!

🐼オマケ🐼
🎸最近の若手で活きの良いバンドを探している方は、👇の記事をどうぞ😉
新世代ギターロックバンド3選【ダニーバグ、The Whotens、ウマシカて】


ダニーバグ「my list」

🎸本番中にも登場した「うみのて」は世界最新(最深)のロックバンドなのです…
うみのての歴史と音楽を名曲8曲で振り返る【初めて/入門者の方もぜひ!】


うみのて「SAYONARA BABY BLUE」