今回は、糖質制限について その5 「ケトン体ダイエット」について述べます。
ケトン体とは何?
「ケトン体」は、アセトン、アセト酢酸、β-ヒドロキシ酪酸という、3つの物質の総称です。
体内のブドウ糖が足りなくなると、体の脂肪が燃焼されエネルギー源として使われるようになります。この時、肝臓で作られるのがケトン体です。
通常、脳はブドウ糖しかエネルギー源として使うことができないとされています。しかしケトン体は、ブドウ糖の代わりに脳のエネルギー源となると言われています。脳のほか、様々な臓器においても、エネルギー源として使われるとされています。
またケトン体は、糖尿病などの疾患の検査にも活用されているようです。糖尿病のためにインスリンが生成されない場合などには、体内のブドウ糖をエネルギーとして使うことができなくなってしまうと言われています。この時にもケトン体が作られるため、ケトン体の濃度は糖尿病などの指標となるとされています。
ケトーシスとは?
血液中のケトン体が増加し標準的な値を超えている状態を「ケトーシス」と呼びます。 ケトーシスは、十分な食料を得ることができずに飢餓状態になっても、ある程度生きていられるようにするための、人体に備わった非常手段のようなものだと言えるでしょう。
食料に困るということがほとんどなくなった現代の日本においても、宗教上の理由で断食をする人や、つわりで食事がとれない妊婦さんなどには、ケトーシスになる人がいるようです。
ケトーシスの状態では、脂肪が分解され、ケトン体が主なエネルギー源として使われるようになるとされています。そのため、ダイエット効果が期待できると言われています。
危険!? ケトアシドーシスとは?
なおケトン体は酸性なので、ケトン体が血中に増えると、血液や体液が酸性になることがあると言われています。このような状態は、「ケトアシドーシス」と呼ばれています。
インスリンが体内で正常に機能している健康な人であれば、ケトアシドーシスになる心配はないようですが、特定の病気を持っている場合などには発症することがあると言われています。
特に、主に1型糖尿病患者(何らかの原因でインスリンがまったく分泌できなくなったり、分泌量が極端に減ってしまうために起こる糖尿病で、生活習慣病とされる糖尿病は2型糖尿病だと言われています)に起こるとされる「糖尿病性ケトアシドーシス」は、嘔吐などの症状を引き起こすとされ、進行すると意識障害が起こり、死に至る危険もあると言われています。
ご自身の健康状態をよく考えて、過度なダイエットは行なわないことをおすすめします。
ケトン体ダイエットとは?
近年、「ケトン体ダイエット」という方法が注目されているようです。このダイエット法は、考案者であるアメリカ人医師、ロバート・アトキンス氏の名前をとって、アトキンス式ダイエットなどと呼ばれることもあります。
このケトン体ダイエットとは、どのような方法なのでしょうか?ここでは大まかに、その内容をご紹介しましょう。
まず、ダイエット開始からおよそ二週間、炭水化物の摂取量を極端に減らします。ちなみに、炭水化物の摂取量は、摂取カロリーの5%に抑える必要があると言われています。
この状態を続けることで、身体が「ケトーシス」の状態になるとされています。それから、体重の増減や体調などを見ながら、少しずつ炭水化物の摂取量を増やしていくと言われています。ただし増やすと言っても、最終的に摂取カロリーの20%を超えないようにします。
あえて身体をケトーシスの状態にすることで、脂肪を分解し、エネルギー源として使うことができるとされるケトン体ダイエットは、非常に効果の高いダイエット法と言われます。
また、ケトーシスになると食欲が抑制され、空腹を感じにくくなると言われています。 ダイエットの大敵である食への欲求に、あまり悩まされずに済むかもしれません。加えて、脂肪をエネルギー源として分解させるため、動脈硬化などの予防にも効果があるのではないかと期待されているようです。
ケトン体ダイエットと糖質制限の違い
炭水化物の摂取量をセーブするという点が大きな特徴であるケトン体ダイエット。この方法と糖質制限ダイエットとは、同じものなのではないか?と思う人もいるかもしれません。
確かに似ている点もあると言えますが、この2つは、厳密には違う方法だと言われています。
ケトン体ダイエットをする場合は、一日に摂取する炭水化物の量が、かなり厳密に定められています。漠然とした量の炭水化物を、長期間に渡って減らす糖質制限とは、この点が大きく違うと言われています。
この2つのダイエット方法を比べた場合は、ケトン体ダイエットの方がより制限が厳しく、実行する際のハードルは高いと感じられるでしょう。
単に主食を抜いたり、イモなどの高糖質の食品を避けたりするだけではなく、調味料にまで注意を払わないと、求められる制限をクリアするのは難しいと言われています。特に外食が多い人などにとっては、ケトン体ダイエットは実行が難しい方法かもしれません。
ケトン体ダイエットを効率よく行うためには
ケトン体ダイエットをするときに、積極的に摂取するといいと言われている食品が「ココナッツオイル」です。ココナッツオイルに含まれている中鎖脂肪酸は、ラードなどに含まれる長鎖脂肪酸よりも分解されやすいと言われています。
それ自体が脂肪として蓄積されにくいだけではなく、長鎖脂肪酸にも影響を及ぼし、燃焼されやすくする働きがあるとも言われています。そのため、ココナッツオイルはダイエットに適した食品と言われています。
加えて、中鎖脂肪酸を摂取することで、ケトン体が作られやすくなると言われています。 ケトン体ダイエットの際にココナッツオイルを摂取することで、よりよい結果を出すことができると期待されています。
ココナッツオイルは、コーヒーなどの暖かい飲み物に入れたり、トーストに塗ったり、揚げ物をするときに使ったりと、幅広く活用することができます。比較的、食生活に取り入れやすい食材と言えるかもしれません。
また、適度な運動も、ケトン体ダイエットの効率を高めてくれると言われています。
炭水化物の摂取量を制限すると、自然とタンパク質の摂取量が増えるため、筋肉が落ちにくいと言われることもあるケトン体ダイエットですが、基礎代謝を高く保つためにも、適度に身体を動かして、筋肉量を維持するように心がけなくてはなりません。
ちなみに筋肉が落ちると、基礎代謝(呼吸や体温調節などのために使われるエネルギーで、運動をしなくても消費されます)も落ちてしまい、消費カロリーの少ない、太りやすい身体になってしまうと言われています。せっかく厳しい食事制限をやり通しても、ダイエットをやめた途端にリバウンドしてしまっては、元も子もありません。
なお、ケトン体ダイエットの効果を高めるために行う場合には、あまり激しい運動をする必要はなく、ウォーキングなどが適していると言われることが多いようです。
ケトン体ダイエットを行う際の注意点
前述の通り、ケトン体ダイエットは効果の高いダイエット法だと言われることがよくあります。
しかしその一方で、思わぬ副作用が出てしまうケースもあると言われているようです。
まず、ケトーシスになるまでの間は、低炭水化物による副作用が出ることがあると言われています。
炭水化物の摂取量をかなり減らすため、頭がぼーっとしたり、頭痛や下痢などを起こしたり、イライラしてしまうなどといった症状が出ることがあるようです。
また、ケトン体の濃度が高くなると、ケトン体を体外へ排出しようとする働きが活発になるため、脱水症状を引き起こす可能性があると言われています。
水や甘くないお茶などを飲むようにし、多めの水分補給を心掛ける必要があります。
ケトン体が原因で、口臭や体臭がきつくなることもあると言われています。
この臭いは「ケトン臭」や「ダイエット臭」などと呼ばれることもあり、甘酸っぱいような臭いがするようです。ケトン体のアセトンが、この臭いの原因だと言われています。
ケトン臭には個人差もあるようですが、人によっては他人とのコミュニケーションに支障をきたしてしまうほど、臭いが気になってしまうというケースもあるようです。
なお、適度な運動を行うことで、ケトン臭を抑える効果が期待できるとも言われています。身体を動かすことで、効率的にケトン体ダイエットを進めるだけではなく、このようなメリットも得られるかもしれません。
なお、低炭水化物による症状やケトン臭などは、ケトン体ダイエットだけではなく、ハードな糖質制限をした際にも見られることがあるようです。
糖質制限ダイエットをしている人がこのような症状を避けるためには、緩い糖質制限から始めるのがいいと言われています。ハードなダイエットをすれば、その分短期間で大きな効果を得られるかもしれませんが、そのために体調を崩してしまうようなら、無理をして続けるのはおすすめできません。
また、ケトアシドーシスを発症する恐れがあるとされる糖尿病の患者さんに限らず、健康状態に不安がある人や通院中の人などが、ケトン体ダイエットをしたいという場合は、かかりつけの医師など、専門家に相談する必要があるでしょう。
さまざまな神経疾患に応用されるケトン食、ケトン体の効能
これから述べますことは、神経内科医の先生方の考え方で、決して頭痛の専門家が考えていることではないことを、まずお断りしておきます。
一般の方々には難解ですので、興味のある方だけご覧下さい。
『βヒドロキシ酪酸(ケトン体の一つ)は内在性のヒストン脱アセチル化酵素の阻害剤として酸化ストレスの抑制に寄与する』ことから、ケトン体は酸化ストレスの抑制に寄与します。
酸化ストレスを抑制するということは、動脈硬化や老化やがん、パーキンソン病やアルツハイマー病や認知症にも好影響が期待できるということです。
この「神経保護作用」をベースに
てんかんとケトン食
加齢とケトン食
アルツハイマー病とケトン食
パーキンソン病とケトン食
ALSとケトン食
癌とケトン食
脳卒中とケトン食
ミトコンドリア疾患とケトン食
脳外傷とケトン食
神経疾患(うつ病)とケトン食
自閉症とケトン食
片頭痛とケトン食
このような神経疾患でのケトン食の可能性が示されています。
ケトン食による神経保護作用
ケトン食治療の二つの顕著な特徴は肝臓におけるケトン体産生の上昇と血糖値の減少です。
ケトンの上昇は主として脂肪酸酸化の結果です。アラキドン酸やドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸などの特定の多価飽和脂肪酸(PUFAs)はそれ自身が電位依存性ナトリウムおよびカルシウムチャネルをブロックすることによって神経細胞膜の興奮性を制御し(Voskuyl and Vreugdenhil, 2001)、ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体(PPARs;Cullingford, 2008; Jeong et al., 2011)の活性化を通して炎症反応を抑制し、また活性酸素の産生を減少させるミトコンドリア脱共役タンパク質を誘導します(Bough et al., 2006; Kim do and Rho, 2008)。
ケトン体そのものは高められたNADH酸化とミトコンドリア膜透過性遷移現象(mPT;Kim do et al., 2007)を通じてATP値を上昇させ活性酸素産生を減らすことによって神経保護作用を持つことが示されてきています。
生体エネルギー機構を改善する同様のラインを通して、ケトン食はミトコンドリア発生を刺激し、結果としてシナプス機能を安定化させることが示されてきています(Bough et al., 2006)。
第二のケトン食の主要な生化学的な特徴は解糖系の流量の減少です。解糖の減少は痙攣を抑制する(Greene at al., 2001)だけでなく霊長類を含む多数の種において生存期間を延長させる(Kemnitz, 2011; Redman and Ravussin, 2011)ことが示されてきています。
他の重要なメカニズムとしてはミトコンドリア機能を改善させ酸化ストレス減少させること(ケトン体やPUFAsでみられる現象も同様)、アポトーシス促進因子の活性化を減少させること、インターロイキンや腫瘍壊死因子α(TNFα; Maalouf et al., 2009)のような炎症メディエーターを抑制することが挙げられています。
さらに細胞内ホメオスターシスや神経傷害や機能不全を防ぐことにも寄与しているかもしれずKDの神経保護に関するメカニズムは他にもたくさんありそうです。
片頭痛とケトン食
慢性的な片頭痛にはケトン食を考慮する理論的な理由があり、特に医学的に難治性の集団に対して考慮に入れる価値があります(Maggioni et al., 2011)。
片頭痛にもケトン食が有効であるとする論文は、これまでにも症例報告がありましたが(Kossoff E.H.,Huffman J.,Turner Z., and Gladstein J.(2010).Use of the modified Atkins diet for adolescents with chronic daily headache. Cephalalgia 30, 1014–1016.)、
大集団でその効果を実証するという試みは、Di Lorenzo C, et al. Migraine improvement during short lasting ketogenesis: a proof-of-concept study. Eur J Neurol. 2015 Jan;22(1):170-7. doi: 10.1111/ene.12550. Epub 2014 Aug 25. に以下のように示されます。
背景と目的:
ケトン体産生は飢餓やケトン食という脂質代謝を誘導しケトン体合成を促す炭水化物を劇的に制限した食事レジメによって引き起こされる生理学的な現象である。
最近、体重を減らすために超低カロリー、ケトン食を行っている周期の範囲内でのみ片頭痛が消失した患者が2名観察された。
我々のこの観察を確かめるために、栄養士が臨床的に設定した2つの並行した片頭痛患者集団において、一方には1ヶ月間の超低カロリー、ケトン食に続いて5ヶ月間の標準低カロリー食を与え、他方には6ヶ月間標準低カロリー食を与える、フォローアップする事とした。
方法:
96名の過体重の片頭痛女性がダイエットクリニックに登録され、盲目的にケトン食(n=45)か標準低カロリー食(n=51)のどちらかの処方を受けた。
1ヶ月の平均発作頻度、頭痛の起こった日数、内服回数が食事療法開始前と開始後1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、6ヶ月の時点で評価された。
結果:
ケトン食群では、ベースラインの発作頻度(2.9回/月)、頭痛の日数(5.11日/月)、そして内服回数(4.91回/月)が、最初の1ヶ月が経った時点で有意に減少した(それぞれ0.71回、0.91日、0.51回、全体でケトン食対ベースライン, P<0.0001)。
移行期間(1ヶ月目対2ヶ月目)では、ケトン食群はベースラインと比べて改善されているにも関わらず、それぞれの臨床的頭痛変数の一時的な悪化を示した(それぞれ2.60回、3.61日、3.07回)が、6ヶ月目までは継続的な改善を示した(それぞれ2.16回、2.78日、3.71回)。
標準低カロリー食群では、頭痛日数と内服回数の著明な減少が3ヶ月目からのみ観察され(P<0.0001)、そして頭痛頻度の減少は6ヶ月目に観察された(P<0.0001)。
結論:
ケトン食効果の基礎のとなるメカニズムはミトコンドリアエネルギー代謝を高め、神経炎症を打ち消す能力と関連している可能性があると考えられた。
この研究で用いられたケトン食は超低カロリーケトン食といって、低炭水化物(1日30g)、低脂質(1日15g)、正常蛋白質(理想体重kgあたり1.0-1.4g)でカロリーを800kcal以下にコントロールするという、ちょっと厳しい食事療法であったようです。
ただ参加された片頭痛患者さんは過体重の人ばかりであったので、多少低脂質であったところで、糖質を制限しているので、もともと蓄積されている脂質を燃焼させることによって、それほど空腹感を感じる事もなく1ヶ月の超低カロリーケトン食を完遂する事ができたのではないかと推測します。
もう一つ、この研究の特徴的なところは、片頭痛が良くなったのがケトン食の効果なのか、やせた事による効果なのかをはっきりさせているところです。
一般的にケトン食の効果は、やめた後もしばらく残存するという事がわかっています。
この研究では1ヶ月間の超低カロリーケトン食を行った後、標準的な低カロリー食へと切り替えて、その後6ヶ月目までフォローアップしています。
そして最初から6ヶ月間ずっと標準的な低カロリー食を続けた群と比べてどうなるかという事を見ているわけです。
最初の1ヶ月でケトン食群でぐっと頭痛が改善しており、2ヶ月目以降は開始前に比べたら多少マシではあるものの、頭痛が再増悪している事がわかります。
しかしながら減量効果は多少緩やかになりながらも6ヶ月目まで維持されています。
もし減量のおかげで片頭痛が改善したのであれば、途中で再増悪するのはおかしいので、片頭痛が改善したのは減量のおかげではなく、ケトン食によってもたらされた効果だと言えると著者らは考察されていました。
そしてそのメカニズムとして脳において抑制性および興奮性神経伝達物質を調節したり、ミトコンドリアの中でのNADH酸化を増やしたり、フリーラジカルを減らしたりする事で酸化ストレスに対抗すること、さらにはミトコンドリア遺伝子の発現を調節し、特に3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルCoA(HMG-CoA)合成酵素に働きかける事でミトコンドリア代謝を改善させる事が示唆されていました。
実に多面的なメカニズムで片頭痛を押さえ込み、その結果、劇的な臨床効果を得ているのではないかと考えられます。
以上、片頭痛がミトコンドリアの機能障害、酸化ストレスが関与しているということが基本的な考え方になるということです