「ペガ」という風変わりなあだ名で

わたしを呼ぶ人は、世界にひとりだけ。

 

 

子どもを通じて知り合ったのに、

「ママ友」なんてよそよそしい垣根を

ぽーんと軽く飛び越えて、

学生時代から知る古い友人のよう。

 

ちょっと無愛想で、ちょっと毒舌で、

そんなシニカルなところが大好きで、

わたしたちはいつも一緒にいた。

いろんなところへ旅をした。

ばかみたいに笑ってばかりいた。

 

 

 

いつからだろう。

友人がお子さんのことで深い悩みを抱え、

よく涙ぐむようになったのは。

 

その悩みは子ども本人しか

乗り越えられない類のもので、

親はどうすることもできない。

 

 

会うたび、延々と泣かれてしまうので、

どう励まし、どう慰めたらいいのか、

思いあぐねてばかり。

 

季節は夏から秋にかわり、

秋は講演会シーズンのため忙しく、

誘いを断ることが増えてしまった。

 

 

たった40日。

 

たった40日間会わなかっただけなのに、

目の前で珈琲を飲む友人は、別人だった。

いつものカフェ、いつもの席なのに、

ざらりとした違和感だけがつきまとう。

 

「幽体離脱」「体外離脱」「覚醒」

友人の口から淀みなく流れてくる言葉。

 

わたしにはわからないと正直に伝えたら、

ひどく怒らせてしまった。

 

 

その日を境に会う頻度はぐっと減り、

コロナ禍になってからは、

連絡を取り合うことも無くなった。

 

 

 

人づてに友人のお子さんの訃報を

知ったのは去年のこと。

そして、つい先週、友人の訃報を聞いた。

 

 

 

どうか、お子さんと再会していますように。

どうか、悩みから解放されていますように。

 

 

できることならもう一度、

「ペガ」と呼ぶあの声が聞きたい。

 

さっき、ベッドでごろんと横になったまま、

ひとりで「ペガ」と呟いてみた。

まったく変なあだ名をつけてくれたよなぁと

苦笑いをしたら泣けてきた。

 

訃報を知ったときは一滴も流れなかった涙が、

今は壊れた蛇口のように流れて止まらない。

 

 

 

ペガはペガサス(Pegasus)の略。

ギリシア神話に出てくる翼がある馬のこと。

わたしがペガサス柄の浴衣を、

好んで着ていたことからついたあだ名。

 

ペガサスのように翼があったら

すぐに会いに行けるのに、

翼を持たないわたしは空を見上げるだけ。

 

 

もう会えない人を大切に偲びながら、

会える人を大切にして生きていこうと誓う。

 

 

 

去年から、臨床心理士の先生を中心とした

子どもの自死防止の取り組みに携わっている。

いつか、その話を綴れたら。