『かっぱの妖怪べりまっち』117話「迷い家(まよいが)」 | おばけのブログだってね、

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2020年12月末に配信終了となった『携帯サイト新耳袋』。

11年間に亘り連載していた短編、『かっぱの妖怪べりまっち』は、第563回で終了となりました。

当時の掲載作を週1編ずつこちらのサイトへ転載しています。

 

旅人に優しい「迷い家(まよいが)」の話

『迷い家』とは、訪れた者に富をもたらすといわれる幻の家。岩手県遠野出身の民俗学者・柳田國男氏の著書『遠野物語』では、『迷い家』を訪れた者はそこから何か持ち出しても良いとされているが、無欲で何も持たずに帰ったある女は後日、川を流れてきた赤い椀を手にする。それを穀物を量る器にしたところ、いくらすくっても穀物は減らず、女の家は栄えた。

 

空飛ぶ円盤に乗せてやるから遊びに来いと河童友達から連絡が来て、かっぱは岩手県の遠野に向った。

待ち合わせの河童淵に来てみたが、友達は一足先に円盤ドライブに出掛けてしまったようで、かっぱは仕方なく小川で浮かんだり畑で瓜を失敬して日暮れまで待った。

それでも友達は戻らず、さて今夜はどこで過ごそうかなと河童淵を後に山を登って行った。

すると向こうに民家の灯りが見える。近くまで行くとなかなか立派なお屋敷、重々しい門構えだ。脇の通用口からスルっと入り、こんばんはと声をかけてみたが返事はない。

キュウリの古漬けでもあればごちそうになろうなどと勝手なことを考えながら台所の土間に足を踏み入れると、食卓には食べかけの夕飯、TVからは誰かの笑い声、エアコンでキンキンに冷やされた室内。近所にでも出掛けたのかなと待っていたが結局、朝まで誰も戻らなかった。

翌朝、里に降りると河童友達にようやく会えた。昨晩はどこで過ごしたのかと訊くので屋敷の話をすると、そのあたりに家はないと訝しげだ。一緒に探し回ったが果たして立派な門も屋敷も見つからなかった。

友達いわく、きっと『迷い家』だ、『迷い家』から持ち帰ったお椀で米びつからお米をすくえば減ることがなく、お金持ちになったのにと少し悔しそうに言う。

お米よりキュウリなら良かったねと冗談を言いつつ川沿いに河童淵に戻ると、そこへタイミング良くお椀が流れてきた。友達は、これは『迷い家』からかっぱへのお土産に違いない、拾いなよと騒ぐ。皿ならともかくお椀じゃね…。拾い上げたお椀は近くで遊んでいた子供にあげて、かっぱはようやく念願の円盤ドライブに出掛けたのだった。

 

数年後、再び遠野を訪ねたら河童淵の近くに新しい豪邸がひとつ建っていた。近所からは"お椀御殿"と呼ばれているそうだ。