さよならの時間~はじまり~
なんだかとても心地よかった、それと同時に気恥ずかしかった。
それは、突然だった。
私たちは、彼の家で隣に座ってDVDを見ていた。
映画は、くだらないものだった。
二人で、くすくす笑っていた。
「葉月、嫌われるのって大変だね。」
彼が、急に口を開いた。
「何?急に。大変なの?」
私は、彼の顔を見つめた。
「大変だよ。」
さよならの時間~はじまり~
彼が急にそんな言葉を発したのは、入社して3ヶ月が過ぎたころだった。
彼との仲は、急激に接近していた。
私にとって、同期の中でも、一番気を許せる存在になっていた。
それは、恋というより友情に近い感情だった。
「そうなんや。」
「会えないのがつらいって言われたよ。」
「そっか。まぁ、遠距離は難しいよね。」
「しかたないけどね。」
彼の悲しそうな笑顔に胸が痛んだ。
そして、少し不安になった。
このことで、私たちの関係が変化することに対して。
その1ヶ月のことだった。
日曜遊びに行く話を電車の中で彼としていた。
彼とは、前から暇なときによく遊んでいた。
こっちに友達の少ない私にとって、彼は親友に近かった。
「お前ら、できてんの?」
何気ない同期の言葉が突然発せられた。
彼に彼女が居るときは、何も言わなかったくせに。
胸の中でつぶやく。
男女の友情は、どこまで成立するのだろう。
確かに、私は彼が好きだ。
でも、同じように彼以外の同期も好きだ。
だから、彼とはいい友情を作って行きたいと思っている。
しかし、その同期の言葉にはっきりと否定できないのは、
心のどっかで友情以上を望んでいるからだろうか。
「葉月はおもしろいから。一緒にいると楽しいから。」
彼が同期の言葉になんとも言えない返事をしたのが聞こえてきた。
「何だそれ。」
「まぁ、いいじゃん、ねぇ、葉月?」
私に向ける彼の笑顔に、大きくうなずいた。
「まぁ、いいじゃん。」
納得いかなそうな同期を横目で見ながら、話題を変えた。
あぁ。神様。できることなら彼の笑顔が曇りませんように。
なんだか、ひどくそう思った。
確かにこのときの気持ちのままでいれば,彼の笑顔が曇ることはなっかた。
彼が幸せであればそれでいい。
そう思えていたはずなのに。
日曜日は、予定外の雨だった。
私たちは、暇になったが、外に出るのがいやになり、
急遽DVDを見ることになった。
別になんでもない気持ちだった。
けれど、この後の展開を知っていればと思う。
でも、知っていれば、私たちは惹かれあわなかった?
「惹かれあったでしょ。」
アイナが得意そうな顔をした。
「葉月も彼もそのときは、もう惹かれあっていたんだよ。」
「そうかな?」
「そうだよ。でも、それ以上に壊したくない友情があったんじゃない?」
「うん。でも、壊してしまったよ。一番守りたいものだったのに。」
私が、頭をさげた。アイナは、私の髪をやさしくなでながらつぶやいた。
「本当の気持ちを隠して、友情のふりしててもいずれ壊れていたと思うよ。」
そうだろうか。壊したくないものと壊さなくては手に入れられないものが同じものなら、
私は壊さないほうを選ぶ人間だ。
それを幸せだと言い聞かせて。
それ以上を、望まないタイプの人間だ。
心の一部が諦めない事を望んでいるなら、諦めたら後悔する。
いつかのスポーツ選手の言葉が思い浮かんだ。
もしかしたら、壊したことは正解だったのかも知れない。
そして、そのことに気づいていたら、今とは違う結末になっていたかもしれない。
そんな後悔で、さらに胸がチクリと痛んだ。
さよならの時間~はじまり~
一面にきれいな花。
駅をおりて最初に目についたのは、そんな景色だった。
「横浜って都会じゃないのか・・・。」
思わず、一人でつぶやいた。
「まぁ、こっちのほうがほっとするけどさ。」
すれ違う人の目線に気づき少し口を閉じる。
昔っから、独り言が多い。
今年大学を卒業し、社会人になるために上京した。
九州の田舎から見たら、関東なんてどこも東京だと思っていた。
自分の住む町の田舎ぶりに少しだけがっかりした。
「社会人になったら、おしゃれな都会のおじさまと素敵な恋をしたい。」
大学時代の親友のアイナにわくわくしながら語ったことを思い出した。
そして、また、少しだけテンションが上がった。
「かっこいい人いるかな」
その頃の、私は、これから起きる未知世界にただ胸を躍らせてばかりいた。
ただ、私は、知らなかった。
恋愛は、きれいなことだけではないことを・・・・。
入社式にはたくさんの同期がいた。
隣の女の子とは、すぐに仲良くなった。
「さつきって、おもしろいね。」
「ありがとう。」
笑顔を見せる。昔から、調子にのって色々話してしまう。
こうやっていくつかの恋をダメにした。
言わなくていいことを、何も考えず口にしてしまう。
「さつきって、彼氏いるの?」
「いないよ。今、探してる。」
昔から、執着心にかけると思っている。
恋をして、ダメになっても、まぁいいやと思う。
どうしても、代わりがいないと思うような恋愛なんてしたことがない。
でも、そんな自分は嫌いじゃなかった。
前を向いて生きている自分は好きだった。
でも、私のこの性格が、大好きな人を傷つけてしまうなんて考えていなかった。
自分も相手もたくさん傷ついた。
浅はかな自分を悔しく思った。
その事実に気がつくのは、もう少し後になってからだった。
「あっ、おはよう。」
「あっ、おはよう。」
声をかけられて思わず笑顔になった。
目の前に知っている顔があった。
内定者懇談会で一回だけあった顔。
「知り合い?」
「内定者であったんだよ。」
これが、始まりだった。
忘れられない人との出会いだった。
「好きだったんだよね。熱い恋愛じゃないけど緩やかな愛に近い。」
ちょっとだけ、はにかみながら話す私に、アイナは黙って見つめてくれた。
親友の優しさに少しだけホッとする。
「いい出会いだったんじゃない。」
アイナがゆっくりと言葉を選びながら話してくれた。
そうだといいね。あなたにとっても。
今は、心の底からそう思うよ。
~つづく~