「おはよう。」

昨日のことを心配してか、心配そうな顔で慧梨を見やる母親に慧梨は挨拶してから首をかしげた。

「・・・あっ、おはようっうふっ

とってつけたような笑顔で言う母親に慧梨は、何かを感じた。

「ねえ・・・どうしたの?

母親は、なんでもない、というように首をふり、慧梨に朝ごはんを装った。

「・・・ありがとはーと

慧梨は、気にしないことにして、朝食に手をつけた。だが、頭の中で急に陽菜や耀子のことがよみがえってきた。今日・・・何をされるか分からない・・・。急に手が震えてなかなか、お箸がつかめなかった。

「え・・・慧梨!?

心配顔で慧梨を見る母親に慧梨は温かいものを感じた。大丈夫・・・私には家族が居る・・・。そう思うと、箸がやっと掴めた。母親はホッとしたのか椅子にグッタリともたれかかった。そんな母親を見て慧梨は愛おしく感じた。お母さん・・・いつもありがとう・・・。心の中でそういう温かい気持ちが流れ出て行った。


ゆっくりと一歩一歩踏みしめる感じで学校までの短い距離を歩いていった慧梨は、校門に立ちはだかる陽菜と伊久美を発見した。一瞬、足が止まった。だが、おもむろにガチガチの足を動かせた。

「ぁ、田村だぁさげさげ

陽菜が嫌そうな顔で言った。

「なぁに?ウチ、田村に会うとテンション下がるってゆうか!

舌打ちをしながらそういう伊久美。言われると思っていたけれどもやっぱり本当に言われると胸が痛い・・・。慧梨は、うつむきながら校門から中に入ろうとした。

「ちょぉっと待ったぁびっくり!! ァンタ、耀子に言うこと、あるんじゃないのぉ・・・食べかす付

慧梨は後ろからグッと肩を掴まれて、ぞっとした。背筋がスーッと寒くなった。

「・・・・・・・・」

言葉に出来ない慧梨に追い討ちをかけるよに伊久美が言った。

「最悪~。耀ちゃん、昨日、泣いてたよん!!

その声も冷たい。

「ご・・・ごめんなさ・・・」

慧梨の声に陽菜がバスンッと慧梨の頬を殴った。

「そぅぃぅのがムヵックんだけど、ゎヵんなぃのぉ?

慧梨は殴られた頬に左手をあてた。ジワンと痛みが広がる。心の中では自分と格闘していた。こんなことされるなら・・・達弥を諦めれば・・・。でも達弥への気持ちは強いまま・・・。

「あっ、た・・・たっ、田村さんっ!?オレンジ

大好きなあの人の声・・・。慧梨は嬉しくてたまらず目をあげると、達弥が立っていた。照れくさそうに。

「ご・・・ごめん。今・・・友達と・・・?」

慧梨は陽菜と伊久美の前だということも忘れて、目を輝かせたまま言った。

「そんなことない!行こうっえ

達弥は、嬉しそうに頷くと、陽菜と伊久美に会釈すると、恥ずかしそうに慧梨の手を握った。慧梨が嬉しくて隣を向くと、達弥が慌てて手を離した。

「ご・・・ごめん。こういうことするって・・・友達に聞いたから・・・」

恥ずかしそうに慌てる達弥に慧梨は頷いた。

「うんっ。手、握っててよっ顔

達弥は再び、慧梨の手を握った。そのとき、慧梨の中にホワン・・・と幸せが広がった。