そこで、篠原のおじさんが、待ってましたとばかりに
喋り出した。
「簡単な、隠し扉ですね~!
僕見つけましたよ
ホラ、ココ見てごらん。
こっちの塀との間に数㍉の隙間があるだろう?
ここは、多分、鉄の扉だ。表には、分らない様に
薄い煉瓦がセメントで貼ってあるだけですね。
だから、きっと、ここの煉瓦が削られている所が
取っ手の変わりですね。何も知らない人が見れば
ただ、誰かが悪戯で削ったか、古くなって崩れた様にしか
見えませんけど…」
そう言って、煉瓦の欠けた部分に手を掛けて、引っ張った。
すると意外にも軽く、煉瓦の扉が開いた。
「正解
お見事。じゃあ中へどうぞ」
真志ーちゃんは、二コリと笑って、中に入った。
僕たちも、真志ーちゃんの後に並んだ。
中は、トマトやトウモロコシ、茄子、三つ葉、エンドウ豆
インゲン、キュウリ、サラダ菜、レタス…
その他、園芸用の草花…
たくさんの植物がきちんと手入れされていた。
「私の、秘密の菜園だよ。自慢の野菜たちでね、
たいていの野菜は自給自足。君らに食べてもらってる
プチトマトなんかもここで作ってるのさ」
真志ーちゃんは自慢そうに言うと、さあと手招きした。
僕は驚きで声が出なかった。
「嗚呼」
康一が、溜息交じりに声を上げた。
夏の光を浴びた菜園は、周りの排気ガスや住宅を
全く感じさせない場所だった。
いや。本当にそれらのモノが、消えてしまったかの様に
視界に入ってこない。意識からも消えている。
どこか田舎の、畑のど真ん中に居るような…そんな感覚。
全ての感覚が、僕を人と自然が見事にマッチした
素晴らしい世界へ引き込まれて行く…。
野菜以外にも、サルスベリやクヌギ…桜…イチョウ…
そんな木々も立っている。それら、全てが見事に手入れされていた。
でも、人工的な植物…って感覚は無い。
最低限の手入れしかされいなくて、自然に近い形の木だった。
「あ…モンシロチョウ…」
操子が呟く。
菜園は、植物ごとに集めて植えられている。
その植え方も、デザイン性があって落ち着く。
真ん中には、人一人がやっと通れるくらいの小道が
作ってあって、僕たちはさらに奥へ進む。
畑の中には、スコップやらジョウロやらが転がっている。
きっと、農作業用のグッズなんだな。
「なぁ…思ったんだけど、真志ーちゃんの家って
こんなに広かったけ?外から見たら、建物と表の庭しか
無いように見えたんだけど……」
康一が小声で話しかけてきた。
「えっ?」
そういえば…確かにそうだ。真志ーちゃんの家の敷地は
洋館と表の庭だけで、裏には……
何があったんだっけ?住宅?店?空き地?公園?
思い出せない。何があったんだろう?
真志ーちゃんに尋ねようかと思ったが、何と無く、その
質問はしてはいけない気がした。
ま、いっか。
今は、この畑の事だけ考えよう。

作/愛理