琴巳は、奈美と露子に見送られ、ライジングという練習用スタジオに来ていた。
「ハーイ!」
いきなりハスキー声でサングラスをかけた茶髪の女の人が手をあげながら言ってきた。琴巳は、思わず片手を挙げ、その隣にいる空は、その人を凝視した。他の8人は、緊張のせいか固まったままでいる。
「へい、手をあげるっ、いいね~!”ハ~イ”とかいうともっといいよぉ!ちょっと、君!美人女性を凝視するなんて失礼じゃないっ!凝視できるくらいならニコッと笑うくらいして頂戴よねっ!他のみんな、堅い!甘い!そんなんじゃジュニア歌手は向かないよ~!」
喋り捲る女の人に空以外の9人がポカーンと口を開けた。
「・・・アンタが指導すんの・・・?」
空が小さく呟くと、女の人がニコッよりニヤッに近い笑みを見せた。
「当然じゃない!何か、文句でもあるのかしら?」
琴巳が見ると、空が目を剥いた。
「・・・っ!冗談じゃないっしょ!」
琴巳は小さな声で空に
「どうしたの・・・?」
と尋ねた。空は、呻き声に近い声で言った。
「あれ・・・ウチの親やねん・・・」
琴巳が目を丸くした。
「えぇぇ!?嘘!」
女の人は、そんな琴巳達に笑顔を見せた。
「名乗り忘れてたわね~!みんな~、田丸 美紗希(

)、貴方達5人のインストラクターになるわ
」
琴巳は、首をかしげた。
「5・・・5人ですか・・・」
一人が代表で聞いた。田丸 美紗希が頷く。
「ええ。この中からトップ5人を私が担当するわ。そのほか、5人は閻魔さんに任せるわ
あっ、今の時点で閻魔さんクラスになっても大丈夫よ。進級だって落ちることだってこの先あるから
」
美紗希の声に9人が目を剥く。空だけが挑戦的な目で美紗希を見ている。
「やってやるわ。アンタなんかに負けへんで
」
空の一層引き立つ美しさに琴巳は見惚れた。
「じゃあ、みんな初見で行こうかしら
これから楽譜、あ歌詞も書いてあるけど、を配りま~す
でわこれから10分で一通り目を通してもらうわ
それでその後、15分ずつみんなに交代で個室に入ってもらって歌練習をしてください
みんな、此処まで来たって事は音痴でもなんでもないから自身を持って歌いなさい
」
美紗希が言うのと同時に空の手に紙が渡った。空は、続いて紙を貰った琴巳に囁いた。
「もお、最悪
アイツの授業受けなあかんぽいけど・・・琴巳と一緒やったら頑張れるし、琴巳、一緒に行こなっ
」
空の自信たっぷりな色っぽい声に琴巳は思わず頷いた。曲名は、”空へ”。琴巳には、曲を選んだイストラクター、美紗希が空に残したメッセージのように思えた。