「おっはよ~。ゆめゆめ~♪」
一人で歩いていた癒芽に、勢いよく澪が飛び掛る。
「はぁ~・・・毎日毎日、何なのよ!」
そう言いながら、癒芽は澪をかわす。毎日同じような事をされるので、
もう避ける事など簡単に出来る。
「何で避けるのさぁ~酷いなぁ、ゆめゆめは」
「酷いわけあるか!アンタがわ・る・い・の・よ!」
そこに、先生が現れる。
「あら、おはよう。浪川さん。石田君。」
一瞬にして癒芽の態度は変わり、笑顔をつくる。
「おはようございます。先生。」
「おはよーございます。」
癒芽につられて、澪もあいさつをする。
「ふふふ。仲が良いのね、浪川さんと石田君って。」
「な・・・!そ、そんなことないですよ。先生っ」
不意に思ってもいなかったことを言われ、癒芽は思い切り首を横に振り否定した。
澪そんな癒芽の反応を見て、少し心が痛んだ。
「そうでしょー先生。俺達、ラブラブなんですよー」
「そうね。じゃあ、早めに教室に入るんですよ。」
先生は、澪の言葉を軽く受け流し、その場から去っていった。
「ふぅ・・・さぁて、石田ぁ~私とアンタがなんだって言った?」
癒芽の顔は笑っているが、相当怒っているようだ。
「え?あ~・・・あは♪じゃ、じゃあ俺はこの辺で~」
「あ、ちょっと、待ちなさい!!」
癒芽の殺気を感じたのか、澪はダッシュで走っていった。
「おはよ、浪川さん。」
「は、はぃ?!・・・あ、中井君。おはよ。」
いきなり後ろから声をかけられ、あせった癒芽だが、声をかけた者が
鳶樹と分かったとたん、フッと肩の力が抜けた。
「あ、あれ?中井君、いつもしてるブレスレットは?」
「あぁ、あれね。昨日の子猫ちゃんに取られちゃって・・・」
鳶樹が苦笑する。
「そうなんだ。大切な物なんでしょ?大変よね・・・」
「え?あぁ、まぁね。でも、また買えばいいしさ。」
「そうなの?まぁ、いいか。あ、もうそろそろ授業が始まるわ。」
「そうだね・・・・あっ!ご、ごめん。先に行っててくれる?」
鳶樹がいきなり大きな声を出したので、癒芽は驚きつつも
「そう。分かったわ。じゃ、また後でね。」と返事をし、教室へ戻っていった。
「ねぇ、いつまでそこにいる気?」
鳶樹が、そばにある木を見て呟いた。
すると、木の陰から黒猫を抱いた翠鴎が現れた。
「気づいてたのね。」
「その猫。君の飼い猫だったんだね。その子、ブレスレットとか持ってなかった?」
「ブレスレットってこれの事かしら?」
翠鴎がポケットから鳶樹のブレスレットを取り出し、鳶樹に見せた。
「それ、俺のなんだ。大切な物だから、返してくれるかな?」
「そんなにこれが大事?まぁ、確かにそうよね。これ、貴方の妹の形見だものね。」
鳶銃の表情が、一気に驚きの顔に変わっていく。
「な、なんでそれを・・・?!」
「翠鴎は、情報を知りたい者の身に着けている物を手に入れれば、
そいつの情報を手に入れる事が出来るんだ。」
いつの間にか、翠鴎の抱いていた黒猫がいなくなり、代わりに鈴が翠鴎の隣に立っていた。
「ね、猫井!いつのまに・・・!」
「翠鴎。こいつの妹と浪川って似てるんだよね?」
鳶樹の事は無視して、翠鴎に質問する。
「そうね。見た目も性格も似ているみたいよ。」
涼しげに話す翠鴎と鈴。
「お、お前達に関係ないだろ!」
鳶樹は我を失い、いつも癒芽やクラスメイトに見せている人格を失いかけている。
キーンコーン♪
予鈴が鳶樹と翠鴎達の所に鳴り響く。
授業が始まるまであと5分。
鳶樹はまだまだ話をしたいようだが、時間が無い。
「あ、後で詳しく話を聞かせてくれ!」
翠鴎はその言葉を待っていたかのように、満足そうにうなずき
鳶樹に一枚の紙を渡した。
「放課後、ここに来るといいわ。」
紙に描かれていたのは、学校から翠鴎の店までの地図だった。
=続く=