「わぁ・・・すごい人・・・
」
目をパチパチと瞬かせ、人ごみに魅せられている加奈子を杏奈は愛くるしく思った。
「私・・・お母さんから離れないでね。」
初めて母親らしいことをした、と杏奈は思った。自由気ままでろくに家にも帰ってこない母親を加奈子はどう思っていたのだろう・・・そう考えると杏奈は息苦しくなって辞めた。
「分かった
」
人ごみに目を未だ盗まれつつも加奈子が無造作に頷いた。その頷きに杏奈は涙が出そうな程嬉しかった。
「あ、あそこ、入り口だよ。」
杏奈は加奈子をじーっと見つめていた・・・それを加奈子に見られてしまって慌てて目を逸らした。
「そうね、混んだら嫌だし早く行こうね
」
杏奈の声に加奈子は、元気よく
「席とりなら、かなに任せて!
」
とウインクを送った。杏奈は、おかしくおもいつつも
「じゃあ、頼むわ。」
と、言った。加奈子は、杏奈を引っ張ってシアターに入ると、中央部の席をとった。その席がいいのか悪いのか分からなかったが、杏奈は加奈子と2人で座った。居心地がよかった。もしかしたら、寝てしまいそうだった。杏奈が未だ何もうつっていないシアターの上空を見上げていると、加奈子がツイツイと服の袖を引っ張ってきた。杏奈が加奈子を見返すと、加奈子は恥ずかしげに
「かな、寝ちゃったら起こしてね。」
と、言った。杏奈は、微笑した。
「もちろん。お母さんが寝たら起こしてね
」
加奈子がクスッと笑った。
シアターは、あっけなく終わり、両者とも寝ることは無かった。
「あっ、見て!オリオン座が未だ輝っているよ
」
加奈子がそういうので杏奈が上空を見上げると確かにオリオン座が瞬く光を浴びせていた。杏奈は、光が薄れていくオリオン座を加奈子と見つめながら言った。
「お母さんね・・・これから早めに帰ってくる約束するから。もっと、加奈子と一緒にいるから。」
加奈子は、杏奈の上向いた美顔を見上げた。
「いいの?お母さん、忙しいんでしょう?」
杏奈は、すっかり消えてしまったオリオン座から目を離すと、
「加奈子のほうが大切よ。」
と、答え加奈子を抱きしめた。加奈子は、本当のうれし泣きを体験した。ワ~ンと声を出して杏奈の胸に泣きついた。
これが親子の真の愛情の未だ始まりだ。この幸せが終わることがありませんように・・・。杏奈と加奈子の両方が消えたオリオン座に願ったことはこれだった。
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