亜矢他は爪を噛んだ。チビの時からの癖でどうしても直せない。

「・・・で、結局杏奈に休暇をやらないんですかボー

亜矢他が聞くと、木村が断言した。

「ああ!もちろんだとも!」

亜矢他は複雑な心情だった。例え、裏切り者の北河の子であったとしても、加奈子に会った事が有り、あの愛いらしい笑顔や仕草、そして性格を思い出せば、木村のいう事が酷く残酷であるように思えたのだ。娘の誕生日に一緒にいさせても貰えないとは杏奈も可愛そうだ・・・。亜矢他は、ふぅと息をついた。杏奈がモデルをやっていて、なかなか娘と会えないことを聞いていたから尚更そう思える。

「ボスぐるぐる

亜矢他の声に木村は、

「何だっ」

と不満そうな声で返した。何が嫌なのだ、木村は・・・。亜矢他は眉をひそめる。なぜ、杏奈に拘るのだ。女にしては、有能だが自分だって・・・そう杏奈に劣っているつもりは無い・・・・・・

「杏奈に休暇をやってください。僕が出ます。」

亜矢他が言うと、木村は

「ダメだびっくり

と威厳のある声で怒鳴った。亜矢他は、ドンッ∑!!と机を拳で叩いた。

「アンタは最悪だ!森崎の時の強硬手段なんで馬鹿げてる!そんなんだから、みんなやめていくんだ!いいさ、俺も杏奈も辞めてやろう!そうすれば、御前は自然破滅だっ!」

亜矢他は、たまりにたまった不満をぶつけた。亜矢他の本音だった。木村は、ムスッとして黙っている。亜矢他は、

「明日、辞退届けを出しに参ります。」

と、言うと一礼して出て行こうとした。本当は、もっと前にこうしたほうがよかったのかもしれない・・・。亜矢他はそう思った。正規の仕事・・・でも順調に進んでいて、そろそろクソ頑固の木村から退きたかったのだ。

「待て。」

木村の低い声がルーム中に響き、亜矢他は振り返らずに聞いた。

「何ですか」

木村の怒り声が木霊した。

「何で御前も杏奈も同じことをいうんだ!俺には何が分からないんだ!」

どんどんヒステリックになっていく木村の声に亜矢他は冷静に返した。

「貴方は、井の中の蛙ですよ。世間を知らないからそうやってその椅子に座ってヘラヘラできる。そんな事をしているよりももっと楽しいことや辛いことが世の中にあるんです。僕・・・そして、きっと杏奈や森崎もそれを求めているんですよ。貴方の馬鹿げたお芝居に付き合うのはゴメンですから。いいですか。お芝居には終わりがあるんです。永遠を求める貴方にお芝居は向いていません。」

亜矢他の声も小さくルームに木霊した。亜矢他は、再び一礼して出て行った。後に取り残された木村は呆然と亜矢他の居た場所を見ていた。