「・・・かな、今日、泣いたよ・・・
」
無表情で加奈子に言われて杏奈は慌てた。
「どっ・・・うしたの!?誰かに虐められたの?」
加奈子は、黙って唇を噛み締めた。杏奈は、頭を掻いた。これは、困った時の杏奈の癖だ。杏奈は、どう声をかけてやればいいのかわからなかった。誰に何をされたのだ
「・・・さんのせいだから。」
加奈子が小さな声でボソッと言った。杏奈は聞き耳をたてていなかったので最初の一部が聞こえなかった。
「何さんに何をされたの?」
杏奈は努めてやさしい声を出そうとした。加奈子はキッと杏奈を睨んだ。
「お母さんのせいだから
」
今度は、ハッキリそういうと逃げ出すように自分の部屋に入ってしまった。杏奈は、心臓を鷲掴みにされた気がした。私は、何をしたのだろう・・・。第一就職先を捨てようとしてまで加奈子と誕生日を過ごそうと思っているのに
「タラランラランルルルランチャラ~ララン
」
杏奈の携帯が鳴った。杏奈は、慌てて藍色の携帯をすくい上げ、通話ボタンを押しながら、加奈子の消えた先を目で見送った。
「はい、もしもし」
生気のない声でいう杏奈に電話の向こう側で木村は笑った。
「どうした?世紀のスーパー・ウーマンが元気ないぞ
」
杏奈は、冷たく答えた。
「その言い方、やめて下さい
」
木村は
「相変わらずつれないな~」
と野暮ったい声で答える。
「よ~く、聞け。7月7日、亜矢他は無理になったそうだ。どうだ。」
杏奈は、携帯を耳から外してにらみつけた。
「何で、亜矢他は無理になっても、私が行かなくちゃいけないんですか
」
杏奈は、大声で言うと、電話を切った。慌てたようにまた木村からかかって来たが、杏奈は、放置しておいたが、音が煩かったので通話ボタンを押してから再度、電話を切った。そして、携帯の電源をOFFにした。杏奈は、よい事を思いついた。木村や職場仲間は杏奈の家を知らない。このまま、音信不通になればいいのだ。杏奈は、加奈子のことを思い出し、心配しながらも嬉しく思った。