てるてるぼうず
「すみません。誰かいますか~?」
翠鴎の家。いや、店に一人の男が訪れた。
夏の暑い日。明日は、七夕である。
「いらっしゃい。そこじゃあ、暑いでしょう。こちらへ・・・」
翠鴎が部屋の奥から現れた。部屋からは、冷房とは違う涼しさが漂ってくる。
男は、翠鴎に案内され、部屋に入った。
部屋には、一匹の黒猫がいた。部屋の中央には小さなテーブルと椅子があり、
翠鴎は男に「お座りください。」とお茶を出した。
「あの、ここは店だよな?」
「えぇ。まぁ、万屋と言ったことかしらね。」
翠鴎はお茶を飲み、一人くつろいでいる。
「じゃあ明日、川を渡れるようにしてくれ!」
男は、テーブルにバンッと手をつき、必死で翠鴎に願った。
「対価さえ貰えれば、私の出来る事だったら何でも出来るわ。」
翠鴎は顔色一つ変えずに、男の話に答える。
「対価・・・何を渡せばいい?!」
「そうね・・・明日、夜空に虹を架けることは出来る?」
「あ、あぁ。出来る!俺はひこぼ・・・い、いや。何でもない。
虹を、虹を架ければいいんだな!」
「じゃあ、対価は貰ったと言う事ね。では、これを。」
翠鴎は、男に『てるてるぼうず』を一つ渡した。
「こ、こんなもので、川を渡れるのか?」
「えぇ。きっと、渡れるわ。」
その後、翠鴎は男を店の前まで送った。
「では、ありがとう。」
男はそういって、店から出ていった。
「また、どうぞ。」
「ねぇ、スズ。明日、晴れるといいわね。」
「みゃーう」
「あの彦星、会えるといいわね。織姫に。」
翠鴎はスズの頭を撫で、部屋に戻っていった。
=完=