僕は真剣に悩んでいたのに、母さんはあっさりOKをくれた。
その日の夜だった。
「今朝のことだけど、別にいいわよ。
まぁ、受験まで時間もあるしね!子どもの間に、たくさんの
体験をするって大事だと思うの。今朝は冷たくしたけど、
あのおじいさんって悪い人じゃないし…
噂によれば、昔はとってもエリートだったんですって!
大手メーカーの重役だったらしいわよ」
なんて言って、あっさり許可してくれたのだ。
きっと、ご近所の人に探りを入れたんだろう。
本当に厄介な親だ。
でもおかげで僕は、充実した夏休みを過ごすことができる。
毎朝、走っていると気持ちいいし、体の感覚が鋭くなっていく。
前ほど、息も上がらなくなったし、スピードも大分速くなった。
そんなある日。
塾が、テストで早く終わった。
だから、ついでに真志ーちゃんの店へ寄って帰ることにした。
「じーちゃん、テスト終わったんだ!アイス一本!」
百円玉を投げる。
真志ーちゃんは上手くそれをキャッチした。
「いつものソーダ味でいいかい?」
僕は、アイスを受け取って、ハッとした。
真志ーちゃんの隣に、知らないおじさんが立っていた。
「誰?」
失礼な聞き方だが、あまりにも驚いて、敬語が出てこない。
「篠原亮治さん。工務店に勤めておられる。
実はな、魔法に会いに遊びに来たんだ」
「魔法?まさか!おとぎ話じゃあるまいし…」
「それはどうかな?」
「ありえませんよね、篠原さん!ハハハ
真志ーちゃんは冗談が好きなんですよ」
「僕は、この人がくれたコメントを見て来たんだけどね。
魔法は本当にあるらしいんだ。それを見たくてね」
僕は、「まさか」と笑った。
しかし、おじさんも真志ーちゃんも本気みたいだ。
「あっ、私はそろそろ失礼します。
魔法なんてある訳無いですね!
いやぁ、でも楽しいです。あなたと話してると…
また、来ますんで。あ、キャンディでもなめて帰ろうか
3つ下さい」
おじさんは、真志ーちゃんに挨拶した。
そして、10円のキャンディを3つ買って、去って行った。
不思議な人……
「絢、明日、塾休みなんだってな」
「うん!遊びに来ていい?」
「ああ、いいよ。明日は一日いればいいさ。
実は康一にも連絡してある。操子たちも来るぞ」
「本当?じゃ僕も来ます」
「ところで、アイスが溶けてるぞ。ボケっとしてないで
早く食べちまいなさい」
「うわぁぁぁぁ!!」
僕は慌てて、アイスの溶けだした部分を舐めた。
甘くておいしい。
あの不思議なおじさん、明日も来るんだろうか?
いったい何者なの?
そんな疑問は、アイスと一緒に溶けてしまった…
つづく![]()
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