重い足取りで、再び塾から家へ歩いていた。

そしてもちろん、あの異質な雰囲気の駄菓子屋の前を

通った。(あの、じいちゃん、元気だな)

僕はそう思った。まだ明るい庭で、向日葵に水をやっている。

僕は、吸い寄せられるように駄菓子屋へ向かった。

洋館の、門をくぐって5歩。おじいさんの隣に立った。

「あの…アイス下さい」

おじいさんが、ニッコリ微笑む。

「えっと、君は…確か、もっと小さい頃に、よく来てくれた子だね」

「はい。覚えているんですか?」

「私は、学校の教師でも先輩でもないんだから、敬語など使わないでくれ」

「スイマセン…」

「暑いから、店の中に入りなさい。アイスは100円」

ジーンズのポケットに手を入れる。昨日、ハンバーガーショップでのおつりが

入っているはずだ…

283円。100円玉を手の平に握る。


店の中は、日陰になっていて涼しかった。

「今はソーダと、バニラ…オレンジシャーベットがあるけど…」

「ソーダで」

おじいさんは、ソーダアイスを手渡して、又微笑んだ。

僕は、そのアイスを受け取り、握っていた100円玉を差し出した。

「ありがとう。そこに座って食べてくかい?」

おじいさんの指差した所には、木のベンチが据えてあった。

僕は、頷いてベンチに腰かけた。

ナップザックを背中からおろし、アイスをなめる。

口の中に、冷たいソーダの味が広がる…。

おじいさんは、声をかけるでもなく、その場を離れるでもなく、

黙って微笑み、僕のことを見ていた。

普通なら、気まずくなる状況なのだが、何故か心地よく感じた。


すっかり食べ終わると、棒を見た。

「ハズレ」

(まあ、当たることなんてまず無い)

ベンチの横に置いてあったくずかごに棒を捨て、ナップザックを背負い

「ありがとう」を言った。

「忙しいかもしれないが、時間があれば又おいで。ホラ」

おじいさんは、僕の手に何かを握らせた。

そっと見てみると、イチゴ味のキャンディだった。

「僕、もう中学生だから…」

断ろうとすると

「サービスなんだから受け取りなさい。キャンディ一つくらい遠慮することないさ」

とおじいさんは笑った。僕はもう一度「ありがとう」を言って

駄菓子屋を出た―――。


              四葉つづく四葉            

                               ボーダー作/愛理ボーダー