「鈴。今回のお客はどうだった?願いを叶えてあげたいと思えたかしら。」
「ん~・・・そこそこかな。でも、叶えてやりたくなくても、対価を貰えば
翠鴎は、願いを叶えるんでしょ?」
「そうね。対価を貰えば、叶えるしかないわ。私が願っていなくても。」
放課後。翠鴎と鈴は一緒に帰っていた。
普通の者ならば、仲がいい恋人同士のようだが、この二人は違うのだ。
「そうそう、鈴。しっかり周りを確認してから、家に帰ってきて頂戴ね。
私は、先に帰っているから。」
「ん。分かった。じゃあ、『中井鳶樹』を見てくる。あいつも客になるんでしょ。」
「えぇ、頼んだわ。あの子は、少し注意して関らないと、大変な事になりそうなの。
くれぐれも、鈴。貴方が猫であることが、バレないように注意して頂戴。」
「分かってる。じゃあ、行ってくる。」
鈴がそう言うと、霧のようなものが鈴にまとい始めた。
霧が晴れた時には、翠鴎の隣に鈴の姿は無く、変わりに一匹の黒猫がいた。
「いってらっしゃい。スズ。」
この二人は、恋人同士ではない。だが、一緒に帰っている。
こういうと、大半の人が疑問を持つだろう。
鈴は、翠鴎の家に住んでいる。いや、翠鴎に飼われている。
翠鴎の家には、『スズ』という、一匹の黒猫がいる。その猫が、鈴なのだ。
スズが去った後、翠鴎は一人歩き出した。
「さて。私は、早く帰ってお客が来る時のために、準備をしておこうかしら。」
「あっ、猫。」
「ホントだ~。ゆめゆめみたいに、カワイイね。」
「うるさい!・・・そうねぇ。野良猫かしら?」
癒芽と澪は一緒に帰っていた。もちろん、こちらも恋人同士ではない。
癒芽に、強引に澪までついて来たのだ。当然、癒芽は気分が悪いようだ。
「鈴は、付けてるみたいだね。」
「は?!な、なんで、お前がいるんだよ!!」
いきなり、癒芽と澪の間を割って出るように鳶樹が現れた。
澪は、その事に気づくと同時に、一気に機嫌が悪くなった。
「中井君。どうしたの?中井君の家って確か、こっちじゃないよね?」
「そうだよね~ゆめゆめ。絶対何か企んでるよ。こいつ。」
「『企む』?何のことかな。僕はただ、これを渡しに来ただけだけど?」
そういうと、鳶樹はカバンの中から、一枚のプリントを取り出した。
「これ、浪川さんにだって。今日、僕が職員室に行ったとき、
先生についでに渡しておいてくれって言われてさ。はい。」
「だったら、学校で渡せばいいじゃん!!絶対怪しい・・・・」
じろじろと鳶樹を睨む澪だが、鳶樹はほとんど無視するように、話を続けた。
「それより、この猫お腹へってそうだね。何か買ってこようか?」
「う~ん・・・でも、鈴を付けてるってことは飼い猫だよね。じゃあ、むやみにあげちゃいけないんじゃないかしら・・・」
「そ、そうそう!ゆめゆめの言うとおりだよ。だから、お前は早く帰れよ。」
澪は、癒芽と鳶樹での態度がまったく違う。
初対面でも、澪は癒芽に好意があると分かるだろう。
「うん。僕は、プリントを渡しに来ただけだから、もう帰るよ。」
「な、な、何だよ!その、あからさまに、オレに言い聞かせるような言い方は~!」
「石田・・・しつこいよ。中井君に迷惑でしょうが!」
癒芽が澪を叱る姿は、母親のようにも見えてくる。
「うっ・・・また怒られたぁ~・・・・」
「えっと・・・じゃあ、僕はこの辺で。また明日。浪川さん、石田君。」
「あ、何だか色々とごめんね。また明日。」
「そういえば・・・さっきの黒猫ちゃんは?」
「あれ、ほんとだ。自分の家に帰ったんじゃない?それより~・・・俺、ゆめゆめの家行きたいな~♪」
「あんた、学校に行けないようにしてあげようか・・・?」
「い、いや。いいです・・・・」
「冗談でもそう言うこと、言わないでよね!」
澪の腹に、癒芽のパンチが炸裂した。
「イタタ・・・酷いよ、ゆめゆ・・・ん?」
『・・・リン ・・・ チリーン ・・・ チリーン ・・・』
「何よ、どうかしたの?」
「ん?あ、いや別に。なんでもないよ。」
(今、鈴の音が聞こえたような・・・気のせいかな?)
澪が聞いた鈴の音は、今後起こる事のきっかけになると言う事は
まだ、誰も知らなかった。
=続く=