「叔母さん、日向 育美って知らない?」

あたしは、家に戻って、叔母に飛びつくように訊いた。叔母がいつもの甘ったるい笑顔を消して、ギョッとしたようにこっちを見た。そして、少し間をおいてまた甘ったるい笑顔に戻った。

「さあねえ。哀ちゃん、それ誰なの?」

あたしは、眉を潜めた。誰といってもな・・・。

「友達。」

あたしは、迷ったけどそう答えた。

「あら、そうなの。その子が何かしたの?」

叔母が好奇心をむき出しにして聞いてきた。叔母に訊いても意味が無かったと後悔するのはちょっと遅すぎた。

「んん。」

あたしは、返事にもなっていない返事を返すと、ダッシュで自分の部屋に上がった。誰に聞こう。誰なら、育美ちゃんを知っているだろう・・・。あたしは、アドレス帳をペラペラめくった。みんな、育美ちゃんのことを知らなさそう・・・。ん・・・歌南子なら知ってるかもしれない・・・っ。

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ママとマリアが買い物に出かけたことを確認して僕は、そっと部屋を出た。パジャマを着替えて、そろりと玄関を出てみる。外に出るのは、3年ぶりくらいだろうか。3年前、エイズの状態が悪くなっていないか、医者に診せにいかれただけだけど。ここ3年間は、外に出たい、と思ったけれど、行動を起こした事は無かった。でも、今、僕は外に出ている。

「あ・・・っ。」

僕が顔を上げると、驚いた顔をした同い年の女の子がたっていた。キョウコじゃないし、アイでもない。僕が新しく知る女の子だった。その女の子は、そっと僕の家の庭に入ろうとしていた。僕は、驚いてマジマジと女の子の顔を見た。

「ごめんなさい。人が住んでるって知らなかったから!」

女の子は、弁解するように何か言ったが、僕には意味が分からなかった。女の子は、ダッシュで駆けて行ってしまった。

「あ!待って!」

僕の声に女の子は、さらにスピードをあげた。僕が何か彼女を咎めるような事を言ったと勘違いされたのかもしれない。