康一が帰って、僕は食べかけのハンバーガーを
紙に包んだ。そして、鞄にしまう。
もう食べる気はしなかった。
「お前、このままじゃ、S高校無理だぞ?
最近成績が落ちているじゃないか……
もっと頑張れよ。…これ、保護者懇談のお知らせだ。
お前の母さんとも今後のこと、相談するから。
な?頑張れや。今日は、もう帰っていいぞ」
塾の担当教師の声が、頭の中に響いた。
S高校は、相当ハイレベルだ。
別に僕が行きたいって言った訳じゃない。
母さんが、近所のおばさんから噂を聞いて、
勝手に「ここに行け」と決めたのだ。
何でも、有名大学進学率が高く、施設が整っているからとか…
母さんは、僕を入試に合格させると、とても張り切っている。
勉強の苦手な僕にとっては、ずいぶん重い期待だ。
何にせよ、保護者懇談の知らせを持って帰るのは嫌だ。
懇談に行った母さんは、きっと落ち込むだろう。
落ち込んだ後には、僕に厳しくなるんだ。
結局、「勉強」「勉強」「勉強」なんだ。
もう、うんざりだった。疲れた。この2年間、塾と通信教育…
模試や定期テスト…そればかりに縛られてきた。
来年には、受験競争が本格的にスタートし、今よりもっと
大変になるだろう。無事にS高校へ行ければ、明るい未来が待っているのか?
大学だって就職だって保障されてないじゃないか……
いつだって、同じなんだ。「勝負」「競争」「勉強」「技術」「能力」………
僕は、店を出て、重い足をひきずり家に帰った。
成績のことでたっぷり説教をくらう。
そして、「食事、作ってあったのに…」と嘆く。
前に、「遅くなるときは、外で食べて来い」と言ったの母さんだろ?
矛盾だらけじゃねーか。世の中は……
そして一夜明けて、僕はまたいつもの様に学校に行く。
つづく
※この物語はフィクションです
作・愛理![]()