大きな家・・・
。あたしは、ため息をついて、たどりついた豪邸並みの家を見上げた。此処の家は、小さい時、ピアノを習っていたのだがその時いつも通る家で凄く貧乏くさいマンションに生前の母親と暮らしていたからうらやましくっていっつも此処を眺めていた。そうする間に此処に住んでいたあたしと同い年の女の子と友達になった。日向 育美ちゃん・・・。幼稚園のときだからよく覚えてはいないけど、当時のあたしにとってその子は凄く珍しい子だった。髪の色がカラフルで会う度に違う色だった。男言葉でしゃべる子は幼稚園にも居たけど、自分の事を”育男”って呼んで、”育男さぁ~”って話す育美ちゃんには凄く驚いた。そんな子、見た事なかった。大人な事もよく知ってた。”恋愛”とか”髪の脱色”だとか”義務教育”だとか。喋ってくれるけれど、あたしには全く理解できなかった。人に構って欲しそうで、でもちょっとプィとしてるのが歌南子にも似てるかもしれない。・・・その子の元家の前にあたしは居る。元家・・・というのは、小学校に入学すると同時にピアノはやめて、その時、丁度育美ちゃんが引っ越す、のような話をしていた。育美ちゃんが居なくなると知ったのは、ピアノをやめるきっかけになった。いやいや通ってたピアノだから、育美ちゃんが居たからこそ続けられたピアノだから、育美ちゃんが居なかったらもうやってても意味無いと思ったから。その時、窓から月色==ううん、それはあたしが育美ちゃんが髪を黄色く染めてた時に呼んでた名前だ・・・なんでだろ、いつもは金髪っていうのに==の髪がチロリと見えた。育美ちゃん独特のくせ毛にそっくり。あたしは、密かにそれが育美ちゃんだと期待した。・・・その子の顔が窓越しに見えた。違った・・・。外人の男の子だ。マリンブルーの大きな目に高い鼻、小さな口。女の子みたいに整った顔をしてる。しかも細身で髪は少し長め。でもあたしは、その子が男の子だとなぜか分かった。
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ママが出て行ってから少しして窓から外を眺めた。こうやって外を眺める時が一番落ち着く。今日は、いつもと一味、違った。通り過ぎていく通行人を見るだけでしかなかったのに今日は、こちらを日本人の女の子が見ている。可愛い女の子だった。何で、こっちを見ているのだろう・・・そんな考えが頭をかすめなかったのが、後になって意外だったけど。僕はいつの間にか、女の子の強い目線にひきつけられていた。決して軟らかい視線じゃないけど、きつすぎもせず、丁度心地よい形だった。女の子が口を開いて何か言った。何を言っているのだろう。窓を開けなくちゃ。僕は、窓を開け放した。
「アナタ ダレ?」
女の子の声が風邪と共に飛び込んできた。変な事を言うな・・・と僕は思った。ここを見ているって事はてっきりママかマリアの知り合いだと思っていた。
「君は誰?」
僕が聞き返すと、女の子は戸惑ったようだ。慌てて、日本語で言い直す。
「キミドナタ?」
女の子は、口の周りに手をあてて言った。
「ア イ。」
僕は、頷いた。
「アイ。」
こうして、僕と彼女のぎこちない会話が始まった。