僕は、塾帰りに駅前の、ハンバーガーショップに立ち寄った。
夜の町は、昼間よりも賑やかだ。
「いらっしゃいませ。ご注文は何に致しますか?」
カウンターに行くと、アルバイトの店員が、お決まりの台詞を言う。
僕は、「チーズバーガーとコーラ、ここで食べる」と答えた。

「チーズバーガーとコーラでございますね?」
さっきそう言っただろう?
「他に、ご注文はございませんか?」
自分の食べたい物を忘れるほど、馬鹿じゃない。
「少々お待ち下さい…」
毎回、決まっているこの台詞。
営業用の、笑顔。どれも、ロボットみたいで気味悪かった。
「お待たせ致しました」
たいして待ってねーよ!
「ご注文は、以上でよろしかったですか?」
自分で確認しろよ…
「合計で…」
350円だろ?それくらい分ってるよ。
僕は、ポケットから小銭を出した。
100円玉が5枚に、50円玉1枚。10円玉が8枚。1円玉が3枚。
きっかり、350円分出す。
「ちょうどお預かりしますね。ありがとうございました」
僕が、トレイを受け取って、次の客が注文を言うまでの一瞬…
アルバイトの女性店員は、さっきの笑顔は嘘のような退屈そうな顔をする。
きっと、小遣い稼ぎのためのバイトなんだろう。
空席を探していると、見慣れた背中があった。
がっしりした大きな背中……
「よっ、康一。めずらしいじゃん」
塾で同じクラスの康一だった。
「ああ、絢ちゃん…隣、空いてるから座って」
「やけに暗いじゃん!どうしたよ。…さては模試の点数がヤバかったとか?」
「………」
「図星か!!大丈夫だって!まだ夏休みだろ!心配するな」
僕は、明るく言った。弱々しく、康一が笑った。
「まあ、そうだよな。母さんに怒られるなんてビビってる俺、
カッコ悪いよな…ハハハ…」
「ハハ、お前らしいよ。僕だって、塾内で最下位だぜ!
S高校は絶対無理だって言われたよ…」
僕と康一はほんの少しの間だけしゃべった。
「あ…ヤベッ!もう10時過ぎてやがる。俺、そろそろ帰るわ」
「…おう…」
たった5分程度のおしゃべりだった。
康一の大きな背中が店を出て行く…それを見送った。
僕は、食欲が失せた。寂しい?いや、そんな訳は無い。
そうだ…最近は受験勉強の疲れで食欲も何かに対する意欲や好奇心も
失せていた。つまらない生活だった。
作・愛理
<つづく>