前回の投稿では震電用に搭載したハ43-42の減速比はおそらく1:0.412だったろうと書きましたが、今回もその続きです。

 ただし、タイトルはハ43-42ですがハ43-44の方で話を続けます。


 ハ43-42は1速+2速(フルカン継手)の2段過給器、ハ43-44は1段3速過給器です。どちらも震電

用で延長軸付きです。震電はプロペラが胴体の後端部にあるので、プロペラの羽根かエンジンの回転方向を逆にする必要がありますが、どちらが逆なのかはよく分かりません。


ハ43-42

 離昇:2130ps/2900rpm/500mmHg

 一速:1850ps/2800rpm/300mmHg/2000m

 二速:1660ps/2800rpm/300mmHg/8400m


ハ43-42

 離昇:2130ps/2900rpm/500mmHg

 一速:2000ps/2800rpm/420mmHg/1800m

 二速:1830ps/2800rpm/420mmHg/5000m

 三速:1660ps/2800rpm/420mmHg/8700m


 ハ43-44の方が吸気圧が高いのに三速公称馬力がハ43-42の二速公称馬力とあまり変わらないのは、2段過給器と1段過給器の違いでしょうか?三速では過給器の駆動に相当な馬力を食っていると思われます。

 とは言え震電のエンジンはハ43-44の方が本命だったようなので、今回はこちらを取り上げました。ハ43-44を搭載した震電で、減速比が0.412と0.472でどんな違いがあるか見てみましょう。



 最初に注意しておきますが、今回の検証では高度によるエンジンの馬力低下率やプロペラ効率などは独自の計算によって推定しているので、最大速度、上昇率、上昇限度の値は参考程度と考えてください。

 グラフは減速比が0.412の方(プロペラ回転数が低い方)が高度8700mで740km/hになるように最小抗力係数を決めて作成しました。



 図1は高度-速度のグラフです。

 高度9000m付近で速度が最大になっているのはラム圧による全開高度の上昇によるものです。3速過給器なので速度の山が三つあります。


図1(高度 - 速度)


 グラフの線は上側が最大速度で下側が失速速度です。高度を上げると馬力低下のため高度約12200mで失速速度を維持出来なくなり、それ以上の高度ではもっと速度を上げないと飛べません。

 真ん中の線は上昇率が最大になる速度です。不規則な折れ線になっているのは馬力と速度によってプロペラ効率が変化するためです。この線と交差する青い線は揚抗比が最大になる速度です。この揚抗比が最大になる速度と失速速度は高度が変わっても計器速度(I.A.S.)は変わりません。つまり失速速度は海面高度で182km/h、高度10000mでは313km/hですが、速度計ではどちらも182km/hを指すということです。

 最大上昇率を維持するには凸凹の線が示す速度で上昇する必要がありますが、実際にはそんなに細かく速度を調節するのは無理だし多少速度が上下しても上昇率はほとんど落ちません。だから現実の上昇速度は「高度◯◯mまでは計器速度◯◯ノット」という感じになるでしょう。

 減速比の違いで最大速度が約25km/h違いますが、これはプロペラ回転数の大きい方が空気の圧縮性の影響を多く受けてプロペラ効率が余計に低くなるせいです。



 図2はプロペラ効率とプロペラ先端マッハ数のグラフです。

 プロペラ効率は上側の線が最大速度、下側の線が失速速度、真ん中の線が最適上昇速度時のプロペラ効率です。実線はマッハ数により調整した効率で、点線がマッハ数を無視した効率です。

 2点鎖線はプロペラ先端マッハ数です。


図2(速度 - プロペラ効率、プロペラ先端マッハ数)


 減速比0.472の方(プロペラ回転数が高い方)は高空ではプロペラ先端が音速を超えます。本来は飛行速度が速いほどプロペラ効率は高くなるのですが、減速比0.472の方はマッハ数の影響が大きいので最大速度時のプロペラ効率が上昇時よりも低くなっています。その結果、三速全開高度では本来のプロペラ効率は減速比0.412の場合より良いにも関わらず最大速度は約25km/h低下します。



 図3は高度-最大馬力のグラフです。
 減速比が違っても馬力はほとんど変わらないので減速比0.412の方だけ描いています。

図3(高度 - 馬力)


 三速過給器なので馬力の山が三つあります。四角形と三角形で囲まれた部分はラム圧による馬力増加です。計算ではラム圧の60%を気圧に加えています。一速で最大100馬力以上、三速では最大約70馬力増加します。



 図4は上昇率と上昇時間のグラフです。

 上昇率の単位はm/s、上昇時間の単位は分です。


図4(高度 - 上昇率、上昇時間)


 上昇時のプロペラ効率は減速比が違っても高度9000mまでは1%ほどしか違わないので上昇率も上昇時間もその辺りの高度まではほとんど変わりませんが、それ以上になるとプロペラ回転数が速い方がマッハ数の影響が大きめに出るため、僅かながら悪化して行きます。



 以上のように、減速比が0.472だとプロペラ回転数が高いのでプロペラ先端が音速を超えてしまい、最大速度が25km/ほど低下するという結果になりました。一方で上昇力の差はほとんどありませんでした。

 高空での最高速度を重視するなら震電用のハ43の減速比はWikipediaに載っている1:0.472よりも、試製震電計画説明書の1:0.412の方が正しいように思えます。