タイトル パリは燃えているか?

公開年

1966年

監督

ルネ・クレマン

脚本

ゴア・ビダル フランシス・フォード・コッポラ

主演

ジャン=ポール・ベルモンド

制作国

フランス・アメリカ

 

ルネ・クレマンは、日本だと反戦映画の金字塔「禁じられた遊び」や「太陽がいっぱい」でよく知られているが、サスペンスに、コメディ、ラブコメと守備範囲は驚くほど広い。それならさぞかし大量の映画撮っているかと思いきや、驚ほど寡作で最も精力的に活動した50~60年代ですら合計11本しか撮っていない。そして75年の「危険なめぐり逢い」以降の20年間は、事実上の引退状態だった。

そんなクレマンが最も脂がのっていた66年に、アメリカ資本の支援を得てパリ解放を描いたラリー・コリンズ、ドミニク・ラピエールの同名のノンフィクションを原作に、撮影したのが本作。英語版とフランス語版が作られ、現在では主に英語版が流通していたり、脚本に後に巨匠と呼ばれるフランシス・フォード・コッポラがいたりと何かとハリウッドの影が垣間見えるが、中身はまごうことなきフランス映画。当時全盛期のフランス映画界の綺羅星のごとき大スター達の豪華共演を見る事が出来る。もっとも、一瞬で出番が終わる人も少なくないが。

自由フランス軍に黒人兵を入れるあたり芸が細かい

 

ノルマンディー上陸以降、ドイツにとって戦局は悪化の一途をたどっていた。そんな時パリの司令官に任命されたコルティッツ大将はラステンブルクの総統本営に呼ばれ、連合軍に渡すくらいならパリを破壊しろと命じられる。ちなみにこのラステンブルクは当時ドイツ領だったが、現在ではポーランドに属しケントシンと呼ばれている。

ヒトラーを演じていたビリー・フリックは、ドイツ人かと思っていたら、スイス出身。本作以外でも映画でヒトラーを演じる事が多いがよく似ている。どういう訳か彼だけ台詞がドイツ語で、英語字幕が出ている。

その頃パリではレジスタンスたちが如何にパリを解放するか協議中。そんな中ドイツ軍が捕虜をドイツ本国に移す計画であることが伝わり、その中の重要人物の移送を阻止しようと、彼の妻のフランソワーズは夫と旧知のスウェーデンのノルドリンク領事に頼み込む。領事の奔走で何とか移送は阻止できたが、肝心の彼女の夫は既に列車に乗せられていた。親衛隊の管轄なので、国防軍も手が出せない。領事はフランソワーズを連れて直談判に赴くが、フランソワーズの目の前で彼は殺されてしまう。この時親衛隊将校を演じていたギュンター・マイスナーはナチスの悪役でおなじみ。ブログで以前紹介した「夢のチョコレート工場」でウォンカの意を受けて暗躍?するスラグワースを好演していた。フランソワーズのレスリー・キャロンはセクシーな役もあるが、本作では悲劇から立ち直る女闘士を好演。

ゲルト・フレーベは同時期でパリでロケをした「トリプル・クロス」にも出演

 

レジスタンス内部でも積極蜂起派の共産党と比べ、ド・ゴール派は蜂起の末町が破壊されたワルシャワの二の舞を避けたい事から消極的。両者の思惑は微妙に違う。

そんな中、パリの警察官たちのストライキに合わせて共産党は蜂起を決断。それを見たド・ゴール派は先んじて警察を占拠して存在感を示した。レジスタンス幹部にジャン=ポール・ベルモンド、シャルル・ポワイエ、ブリュノ・クレメール、そしてアラン・ドロン。そしてノルドリンク領事にオーソン・ウェルズとため息が出るような豪華なメンツ。

 

アラン・ドロンはド・ゴールの側近となるジャック・シャバン=デルマスを演じる

 

パリ破壊の準備をしていたコルティッツ大将は警察本部に戦車を向かわせるが、各地での蜂起の知らせに手が回らない。そこでノルドリンク領事の提案を受けて一時休戦に応じた。史実だと、この時コルティッツのもとに2万人の兵力があったが、主力の第325保安師団は治安維持用の警備部隊で、その大半はパリの外に出て連合軍と対峙中でとてもレジスタンスを完全制圧する兵力はなかった。ちなみに同師団は、パリ解放後連合国軍に降伏している。

パリに奇妙な平穏が訪れるが、その間レジスタンスはアメリカ軍と連絡を取ろうと使者としてガロアを派遣。苦労の末ドイツ軍の戦線を突破して、何とか米軍と接触に成功する。この時、ドイツ軍が立てこもる陣地の、真横を抜けていくときの緊張感が凄い。

しかし米軍はパリの解放には多大な損害が生じるとして、積極的ではなかった。ガロアは米軍幹部を説得し、自由フランス軍のルクレール将軍とも接触に成功。その結果米軍はパリ進行を決定する。

屋根のタンクが面白いがガソリンとガスの両方の動力で動くのかも

 

その頃パリではドイツ軍とレジスタンスとの戦いが再開され、各地で銃撃戦が繰り広げられていた。しかしコルティッツ大将はもうドイツの敗戦は避けられないと結論。ノルドリンク領事の説得もあって、パリの爆破は先延ばしにしていた。ここで二人の親衛隊将校がコルティッツのもとを訪れる。てっきり逮捕に来たかと思ったら、ルーブルにある美術品をヒムラーが欲していると言われる。この時のコルティッツの返しが絶妙。演じているゲルト・フレーベは「007ゴールドフィンガー」の様な悪役が多いが、本作では命令と良心とのはざまに悩む実直な軍人を演じている。上記のシーンは彼の軽妙な一面が見られて面白い。ちなみに彼は元ナチ党員だったが、その肩書に隠れユダヤ人の国外脱出に手を貸していた。親衛隊将校の1人を演じていたのが、カール・オットー・アルベルティ。「戦略大作戦」でティーガー戦車兵を演じていたあの御仁だ。

お馴染み、カール・オットー・アルベルティ(右)

 

その頃連合軍は、自由フランス軍の第2機甲師団を先鋒にパリ解放を目指して進撃を開始。多少の抵抗はあったものの、ドイツ軍の戦線をやすやすと突破。連合軍の進撃を阻む者は、熱狂的に出迎えるパリ市民だけだった。進撃路のカフェの女主人をシモーヌ・シニョレ。自由フランス軍の戦車兵にイヴ・モンタン。そして先鋒に同行するアメリカ兵をアンソニー・パーキンスが演じている。この辺りになると、もう感覚がマヒしてしまっている。

イブ・モンタン(右)とジャン・ピエール・カッセル(左)

アンソニー・パーキンス(右)

 

全編モノクロで撮影されているが、ラストシーンのみカラーで撮られているため、てっきりドキュメンタリータッチにするため、あえてモノクロで撮ったと思っていたが、当時のパリではナチスのカギ十字の旗を掲げる事が禁止されていたので、下地が緑色の小道具を作って、それを誤魔化す為にモノクロにしたとかなんとか。真偽は不明だが、当時のフランスはド・ゴールによる保守政権。その為撮影にあたって、共産党が果たした役割をできるだけ小さく描くように求められたのは事実。明らかに思想信条の自由への制限に他ならない。日本の海外出羽守は「ヨーロッパでは政治が映画に介入する事は無い」と言っているが、こうした事例は徹底的に無視するか「あれは保守政権だから」と誤魔化している。

ブラッドレー将軍はグレン・フォード

パットンを演じるはカーク・ダグラス

戦争映画でのドイツ軍人役でおなじみのヴォルフガング・プライス

 

フランス映画界の銀幕のスター達の総出演と言った感じで、見ているだけでお腹いっぱいになってしまうほど。内容はいかに占領下でフランス人達がドイツに抵抗したかという、いわゆる「レジスタンス伝説」の真骨頂と言った感じ。ただ、本作の3年後の1969年に、レジスタンスの暗部を描いた、ジャン=ピエール・メルヴィルによる「影の軍隊」が作られているので、この頃が「レジスタンス伝説」のピークだったのだろう。本作を見ていていても、やや遠回しながらも結局パリを救ったのは敵であるドイツ軍のコルティッツ大将と、彼を説得したスウェーデンのノルドリンク領事。そして迅速にパリに到達したアメリカ軍で、レジスタンスの果たした役割はそれほど大きくないのは明らかだが、当時のフランスが国際社会で国威を示すにはレジスタンス伝説が必要だった。

M24改造のパンター。小型だが改造パンターの中では一番バエる

 

今回この映画を取り上げたくなったのは、勿論現在絶賛開催中のパリ五輪がきっかけ。まあ、あの開会式は100万歩譲って「エンタメ」として認めるにせよ、その後の運営がお粗末としか言いようがない。特に選手の活力のもととなる食事に、頼んでもいないのに「環境にやさしい」とのうたい文句でヴィーガンもどきを提供するのはどうかと思う。以前「ヴィーガンズ・ハム」で書いたとおり、肉を採らなくても人が過ごせるエネルギーを得る事は可能だが、それには恐ろしく手間とお金がかかるし、何より常人よりも大量のエネルギーを、それも手早く摂取しなくてはいけないアスリートの食事には向かないと思う。本作を見ると、そうしたフランス人のメンタリティがおぼろげながらでも理解できると思う。昨今の五輪で最も良かったのはロンドン五輪。開、閉会式(当時の女王がジェームズ・ボンドにエスコートされるんですぜ!)、そして運営とも完璧だった。東京五輪は開、閉会式は少々微妙なところもあったが運営は完璧。それだけにフランスは、真似したと思われたくなくて、それらの逆を行こうとしたのかもしれないが、そうしたメンタリティも本作を見ると理解できるのではないだろうか。

司令部前で抵抗するホチキス軽戦車。捕獲されドイツ軍に使われているという設定

 

ただ、本作はまごうことなき名作である事もまた事実。ルネ・クレマンの演出はテンポよく、群像劇でともすればバラバラになりそうなエピソードの羅列を、手際よくまとめていて3時間近い長尺にもかかわらず、一気に見る事が出来るし、見始めたらやめられなくなる面白さが本作にはある。後半でパリに進撃する連合軍を見た夫婦が、アメリカ軍と思ったら自由フランス軍であることを知り抱き合うという、ナショナリズムむき出しのシーンすらちょっとウルっとしたぐらい。とはいえ、占領期のフランスはドイツに徹底的に搾取され、食糧割り当てはドイツ人の半分。肉に至っては3分の1以下しか割り当てられず、この時期のフランス人は常時軽い飢餓状態にあったと推測されているので、この反応は当然と言える。

全盛期のルネ・クレマンの凄さを実感できる本作は戦争映画好き、そしてフランス映画好きなら一度は見て欲しい映画なので、機会があればどうぞ。

60年代までM4シャーマンをフランス陸軍は装備していたから稼働戦車に事欠かない

降伏するコルティッツ。この時幕間喜劇めいたやり取りがあったが映画ではカットされている