火星人地球大襲撃(1967年) 監督 ロイ・ウォード・ベイカー 主演 アンドリュー・キア

 

ロンドンの地下鉄工事現場で発見された奇妙な物体。それはなんと500万年前に地球に飛来していた昆虫型火星人の宇宙船だった。時同じくして地上では理由なき人間同士の争いが続発し始める。それが宇宙船から発せられるエネルギーのせいだと推測し、宇宙船内に残されたデータから、火星人に何が起きたのかを突き止めようとするクォーターマス教授。だがそのデータに残されていたのは、遙か太古に繰り広げられた火星最終戦争の記憶であった……。

ナイジェル・ニールが脚本を書いた1953年にBBCで放映されたテレビシリーズで、 "The Quatermass Xperiment" の1編を、ハマー・フィルム・プロダクションが映画化した「原子人間」の大ヒットを受けて「クオーターマス・シリーズ」として「宇宙からの侵略生物」、そして本作の二本の続編が作られた。また、ハマー・フィルムはこれをきっかけとして、ホラー映画路線にかじを切る。

本作は実は63年に制作される予定だったのが、諸般の事情で前作「宇宙からの侵略生物」から10年後となってしまった。その為クオーターマス教授役はブライアン・ドンレヴィからハマー・フィルム作品に数多く出演しているアンドリュー・キアに交代したが、これにケネス・モアを希望していたウォード・ベイカーが不満を隠さなかったので、撮影現場は緊迫した雰囲気だったという。

冒頭でロンドンで地下鉄の拡張工事をしていたら、類人猿の人骨が見つかり、ロニー教授のもとで発掘したら、今度は固い物体が発見され、それが不発弾か大戦末期のドイツの秘密兵器かもというあたり、戦勝国とはいえ英国も被害を免れなかったことを思い出させてくれる。類人猿の骸骨から500万年前のものと推定され、その物体はダイヤよりも硬い未知の材質で作られており、クォーターマス教授は、その物体が火星から、500年前に飛来した宇宙船であるという仮説を立てる。この場所は昔から古代から幽霊の出る場所として恐れられており、多くの心霊現象が報告されていたとか、いかにも英国らしくミステリアスな導入部は、まさに「掴みはOK」といった感じ。この、古代に飛来した火星人の宇宙船というSF的なアイデアと、オカルトを結びつけるのは、興味を惹かれる。

滅亡に瀕した火星人は地球に来てみたが、地球の環境では住めない。それで類人猿を連れ帰り、手術で高い知能を持たせ、同時に異種の排除という特性も持たせた。それにより人類は好戦的となったという考察が面白い。もっともこれらの説はすべてクォーターマス教授が唱えるだけで、根拠はない。ただ、お約束としてヒーローの唱えるものはすべて正しいのだ。ちなみにクォーターマス教授は「原子人間」「宇宙からの侵略生物」の前2作で地球を救っているのだが、10年経っているせいか、みんな忘れているのもお約束。

終盤クォーターマス教授の反対を押し切って、政府は宇宙船を公開する。その場で起動し発光する宇宙船。大混乱に陥る現場。その中で、火星人たちの残留思念(とでもいうべきか)で、人々を操り混乱を増幅させていく。火星人に操られているものが、正常な者を追い詰めて殺していくさまが怖い。そうして、火星人(の残留思念)は地球人のエネルギーを吸い取り、やがてロンドンに青白く輝く巨大な火星人の姿が浮き上がる。子供の頃テレビでこの映画を見たが、ロンドンに浮き上がる巨大な火星人の姿だけは恐怖を覚え、トラウマとなってしまった。本来ここでクォーターマスが八面六臂の大活躍で騒動を収めるはずが、その役割は宇宙船を発掘したロニー教授が担うという番狂わせ。正直子供の頃の記憶から、クォーターマスの事はすっぽり抜け落ち、ロニーの事しか覚えていなかった。

ちなみにロニー教授を演じるのはジェームズ・ドナルド。「大脱走」で捕虜の代表ラムゼイ大佐を演じたことで有名だが、大作が多くB級SFに出ているのが意外だった。

正直本作は、火星人と地球人の関係がはっきりとしないし、火星人の造形や火星での戦いを描いた映像がチープすぎるなど、色々と残念な面も目に付く。しかし、ミステリー要素にSF,更にホラー要素もあって最後まで楽しめる傑作となっている。ハマー・フィルムがホラー映画にかじを切るちょうど過渡期の作品だけに、映画史の中でも貴重な映画といっていい。低予算故特撮がチープなのが残念だが、それを補って余りある魅力がある。

余談だが、本作はトビー・フーバー監督の「スペースバンパイア」の元ネタと言われている。特に終盤の青白い光に包まれ崩壊するロンドンのシーンは、本作と類似点が多い。そして本作も「スペースバンパイア」も、高い評価を得ている割には、興行的に振るわなかった点も似ているのは余計なことだが。