前回は貸借対照表前篇として資産サイドのチェックポイントを述べたが、後篇である今回は貸借対照表の負債・純資産サイドのチェックポイントを述べる。
自分自身で言ってしまうのも恐縮であるが、各勘定科目のチェックポイントをおさらいするのは読者にとっても退屈なものであるかもしれないが、後々説明する資金循環の概念や財務比率、総合的な財務分析をする上で必ず必要になるので、退屈だとしても一読頂きたい。(勘定科目を網羅的に説明せず、できるだけポイントを絞って説明している点ご理解頂きたい。)
<1.流動負債>-1年以内に支払期限が到来する負債。短期借入金など実質借り換えを前提としているものも計上される。
①支払手形、買掛金
・与信管理担当者として担当取引先の主要な仕入先を調査し、その仕入基盤の概要を把握する必要がある。
・取引先の事業資金調達面における仕入先金融への依存の状況及び変化を綿密に把握することが課題。
※仕入先金融とは、仕入先が当該取引先に支払猶予を与える(=与信をしている)ことによって、資金を調達すること。
・通常は業界平均の決済条件で仕入先金融を利用し、不足分を銀行金融に依存する。仕入先金融重視あるいは銀行金融重視か確認する必要。
・業績不振の会社など資金調達を銀行に頼めず、仕入先への支払い遅延を起こすようなケースについては厳重に注意する必要。
②短期借入金、1年以内返済長期借入金(、長期借入金)
・銀行金融は仕入先金融及び自己資本と並んで、企業の事業資金の調達源泉の一部を構成している。
・企業の経営者は常日頃からすべての取引銀行に対して、自社の経営内容をできるだけ詳細かつ正確に報告し、資金が必要になったときはいつでもスムーズに融資が受けられる信頼関係を構築しておくことが大事である。
・可能な限り取引先から勘定内訳書を入手して銀行と借入金を対比させ、これに不動産や有価証券の担保を付け加えて銀行取引状況表を作成し、各取引銀行ごとの借入れの実態及び借入余力を把握する。
・借入金総額から手元現預金(拘束預金も含まれると考る)を控除した実質借入金を把握。
・多行取引の会社に注意。業績不振会社で資金調達が難しくなっていると、5百万円~10百万円の融資を求めて新規の銀行と取引を開始し、取引行数が次第に増えてくる。取引行数が増える時、都市銀行⇒地方銀行⇒第二銀行⇒信用金庫⇒信用組合と次第に広げられていくのが一般的である。
③前受金からその他流動負債まで
・いわゆる雑負債は雑資産同様、会社規模に比して異常に大きな金額が計上されている時は勘定内訳書を入手してその内容を確認する必要がある。
④返品調整引当金
・返品調整引当金は販売のあった期の利益の取消とするために、期末において翌期以降の返品額を予測して引当金の計上を行う。
・法人税法上、返品調整引当金の積立てが認められる業種が限定列挙されており、例えば繊維業界ではアパレル業者が対象となっている。業績不振の会社が決算をよく見せるために、税法で認められた限度額の一部引当金を設定し、まったく設定しないケースがある。
<2.固定負債>--1年以内に支払期限が到来しない負債。1年を超えて使用される長期負債性引当金、退職給付引当金など。
①社債
・社債発行の目的・使途を確認。社債発行は一定の要件を満たす会社に限られる。
②退職給付引当金
・退職給付債務(退職一時金と退職年金の合計額)に対して年金資産などが不足する場合、その不足額を退職給付引当金として計上することが求められている。(法人税法上、損金不参入のため、一般の中小企業で計上している会社はほとんどない)
<3.純資産>-会社の資産総額から負債総額を差し引いた金額を指し、企業が自己資本(返済しなくてもよい)として調達あるいは過去の利益を繰り越してきた金額。資産の包蔵損失を把握し、正確な実質自己資本額の把握が重要。
①資本金、資本剰余金、その他の資本剰余金
・財務分析面では株主からの出資金と言う点で同じで、区分して見ることはほぼない。資本金の推移や出資者などを把握する必要がある。
②利益剰余金
・利益剰余金の内訳:「利益準備金」と「その他の利益剰余金」
・利益準備金:配当の1/10を資本準備金と利益準備金の合計が資本金の1/4に達するまで積み立てが必要
・その他の利益剰余金:「任意積立金」と「繰越利益剰余金」から成る
・任意積立金:「その他の利益剰余金」より積み立てられた金額。
・繰越利益剰余金:前期繰越利益剰余金に当期純損益を加え、配当金・利益準備金・任意積立金を控除した金額
③評価・換算差額等
・資産または負債に係る評価差額のうち損益計算書を通さなかったもの。その他有価証券評価差額金、繰り延べヘッジ損益、土地再表は差額金、為替寒山調整等から成る。
・詳細な解説はしないが、多額の場合は内容の確認が必要。
<4.偶発債務>-貸借対照表上に現れない債務。保証の履行請求や割引手形の不渡り等、企業に致命的な資金繰り悪化を及ぼすものもある。
①割引手形
・売先から回収手形を手形期日以前に銀行に持ち込み現金化したもの。
・手形取得先が支払できなかった場合、資金繰り難に陥る可能性あり。割引手形が多額になる場合は、銘柄のチェックが不可欠。
・市中の割引業者に頼む会社は末期的状態にあるとして、与信取引は見合わせるべき。
②裏書譲渡手形
・販売先より回収してきた手形を裏書して譲渡する手形の残高を計上する科目
・これも期日以前に現金化したと考えられるため、多額である場合は回収してきた手形の銘柄のチェックが不可欠。
③保証履行債務
・子会社や関係会社の債務に対して保証を差し入れている場合、上場会社であれば有価証券報告書に記載しなければならないが、通常の中小企業は決算書等に記載されていない。
・保証差し入れ先の有無、保証を差し入れているのであればその企業の業績や財務体力はどうなのかの確認が不可欠。
以上が負債・純資産サイドの主なチェックポイントである。
不明点などあれば連絡いただきたい。
損益計算書及び貸借対照表の説明が一通り終わったので、次回は財務比率の説明に入る。
以上
自分自身で言ってしまうのも恐縮であるが、各勘定科目のチェックポイントをおさらいするのは読者にとっても退屈なものであるかもしれないが、後々説明する資金循環の概念や財務比率、総合的な財務分析をする上で必ず必要になるので、退屈だとしても一読頂きたい。(勘定科目を網羅的に説明せず、できるだけポイントを絞って説明している点ご理解頂きたい。)
<1.流動負債>-1年以内に支払期限が到来する負債。短期借入金など実質借り換えを前提としているものも計上される。
①支払手形、買掛金
・与信管理担当者として担当取引先の主要な仕入先を調査し、その仕入基盤の概要を把握する必要がある。
・取引先の事業資金調達面における仕入先金融への依存の状況及び変化を綿密に把握することが課題。
※仕入先金融とは、仕入先が当該取引先に支払猶予を与える(=与信をしている)ことによって、資金を調達すること。
・通常は業界平均の決済条件で仕入先金融を利用し、不足分を銀行金融に依存する。仕入先金融重視あるいは銀行金融重視か確認する必要。
・業績不振の会社など資金調達を銀行に頼めず、仕入先への支払い遅延を起こすようなケースについては厳重に注意する必要。
②短期借入金、1年以内返済長期借入金(、長期借入金)
・銀行金融は仕入先金融及び自己資本と並んで、企業の事業資金の調達源泉の一部を構成している。
・企業の経営者は常日頃からすべての取引銀行に対して、自社の経営内容をできるだけ詳細かつ正確に報告し、資金が必要になったときはいつでもスムーズに融資が受けられる信頼関係を構築しておくことが大事である。
・可能な限り取引先から勘定内訳書を入手して銀行と借入金を対比させ、これに不動産や有価証券の担保を付け加えて銀行取引状況表を作成し、各取引銀行ごとの借入れの実態及び借入余力を把握する。
・借入金総額から手元現預金(拘束預金も含まれると考る)を控除した実質借入金を把握。
・多行取引の会社に注意。業績不振会社で資金調達が難しくなっていると、5百万円~10百万円の融資を求めて新規の銀行と取引を開始し、取引行数が次第に増えてくる。取引行数が増える時、都市銀行⇒地方銀行⇒第二銀行⇒信用金庫⇒信用組合と次第に広げられていくのが一般的である。
③前受金からその他流動負債まで
・いわゆる雑負債は雑資産同様、会社規模に比して異常に大きな金額が計上されている時は勘定内訳書を入手してその内容を確認する必要がある。
④返品調整引当金
・返品調整引当金は販売のあった期の利益の取消とするために、期末において翌期以降の返品額を予測して引当金の計上を行う。
・法人税法上、返品調整引当金の積立てが認められる業種が限定列挙されており、例えば繊維業界ではアパレル業者が対象となっている。業績不振の会社が決算をよく見せるために、税法で認められた限度額の一部引当金を設定し、まったく設定しないケースがある。
<2.固定負債>--1年以内に支払期限が到来しない負債。1年を超えて使用される長期負債性引当金、退職給付引当金など。
①社債
・社債発行の目的・使途を確認。社債発行は一定の要件を満たす会社に限られる。
②退職給付引当金
・退職給付債務(退職一時金と退職年金の合計額)に対して年金資産などが不足する場合、その不足額を退職給付引当金として計上することが求められている。(法人税法上、損金不参入のため、一般の中小企業で計上している会社はほとんどない)
<3.純資産>-会社の資産総額から負債総額を差し引いた金額を指し、企業が自己資本(返済しなくてもよい)として調達あるいは過去の利益を繰り越してきた金額。資産の包蔵損失を把握し、正確な実質自己資本額の把握が重要。
①資本金、資本剰余金、その他の資本剰余金
・財務分析面では株主からの出資金と言う点で同じで、区分して見ることはほぼない。資本金の推移や出資者などを把握する必要がある。
②利益剰余金
・利益剰余金の内訳:「利益準備金」と「その他の利益剰余金」
・利益準備金:配当の1/10を資本準備金と利益準備金の合計が資本金の1/4に達するまで積み立てが必要
・その他の利益剰余金:「任意積立金」と「繰越利益剰余金」から成る
・任意積立金:「その他の利益剰余金」より積み立てられた金額。
・繰越利益剰余金:前期繰越利益剰余金に当期純損益を加え、配当金・利益準備金・任意積立金を控除した金額
③評価・換算差額等
・資産または負債に係る評価差額のうち損益計算書を通さなかったもの。その他有価証券評価差額金、繰り延べヘッジ損益、土地再表は差額金、為替寒山調整等から成る。
・詳細な解説はしないが、多額の場合は内容の確認が必要。
<4.偶発債務>-貸借対照表上に現れない債務。保証の履行請求や割引手形の不渡り等、企業に致命的な資金繰り悪化を及ぼすものもある。
①割引手形
・売先から回収手形を手形期日以前に銀行に持ち込み現金化したもの。
・手形取得先が支払できなかった場合、資金繰り難に陥る可能性あり。割引手形が多額になる場合は、銘柄のチェックが不可欠。
・市中の割引業者に頼む会社は末期的状態にあるとして、与信取引は見合わせるべき。
②裏書譲渡手形
・販売先より回収してきた手形を裏書して譲渡する手形の残高を計上する科目
・これも期日以前に現金化したと考えられるため、多額である場合は回収してきた手形の銘柄のチェックが不可欠。
③保証履行債務
・子会社や関係会社の債務に対して保証を差し入れている場合、上場会社であれば有価証券報告書に記載しなければならないが、通常の中小企業は決算書等に記載されていない。
・保証差し入れ先の有無、保証を差し入れているのであればその企業の業績や財務体力はどうなのかの確認が不可欠。
以上が負債・純資産サイドの主なチェックポイントである。
不明点などあれば連絡いただきたい。
損益計算書及び貸借対照表の説明が一通り終わったので、次回は財務比率の説明に入る。
以上