今回は与信管理の重要性について述べる。

会社経営の上で必ず必要になる職能組織は経理部、財務部(もしくは資金調達を担当する組織、社長が自らやっている会社も多いだろうが)であることは周知の通りである。
では、与信管理を担う部署はどうだろう。

多くの中小企業経営者は
「与信管理に人手を割くくらいなら売上を上げる方が大事だ。」
とも考える方が多いと思うが、実は大きな間違いであることが多い。

というのも、業種によっては例え回収不能債権が少額であったとしても、その損失を回復させるための労力がわりに合わないことが多いからである。

このサイトは中小企業庁が公布する中小企業実態基本調査である。
http://www.chusho.meti.go.jp/koukai/chousa/kihon/index.htm
ここから取得できる統計表を一部加工したものをこちらからご覧いただきたい。

全産業の売上総利益率は23.5%となっており、情報通信業や不動産業、サービス業などが高い売上総利益率を占める中、卸売業の売上総利益率は14.0%となっている。
もちろん経費の大小があるので、営業利益率や経常利益率などでは利益率の差は少なくなるが、税引後当期純利益率でも卸売業は0.7%と一番低くなっている。

ここで、本論に入りたいと思う。
毎月の売上高30百万円、売上総利益率14%の取引で、180百万円の貸倒損失が起きた場合、その利益を回収するために新たな売上高をいくら増やさなければいけないのか。

その答えは約13億円となり、毎月の売上高が30百万円の同様取引で回収しようとなると、44ヶ月かかるるのである。
13億円の計算根拠:<貸倒損失 180百万円>÷<売上総利益率 14%>
44ヶ月の計算根拠:<回収必要売上高 1,300百万円>÷<毎月売上高 30百万円>

これはあくまで前述売上総利益率の平均値をとったもので、ご覧になる方が実際に行われている取引の金額、利益率を上記式に当てはめて考えていただきたい。
実際には売上総利益段階以下で計算される営業費用や税金もかかるので上記値は理論上の最小の値であることはご理解いただけるであろう。

さらに、債権回収にかかる営業担当の時間、心労(これがバカにならない)、貸倒損失の無税化処理のために税理士、税務署と打ち合わせをする時間など、不良債権発生後の手間は多く時間価値も考えると非常に大きなインパクトを会社に与えているのである。

審査業務や債権回収業務というと、以前流行した半沢直樹を思い浮かべる方も多いかと思うが、実際には
土地や有効な保証など取得しない上で行う信用取引こそ与信管理が一番重要
であることがわかっていただけると思う。

商社の与信管理が現在において独自の発展を遂げてきたのは上記の要因である。
(粗利が大きいメーカーやサービス業は代金回収を新たな売上でカバーする事は比較的容易)

もし読者の方で卸売業に属する売上総利益率が低い商売(薄利多売)が多いのであれば、至急与信管理体制を構築することが重要であると言える。

以上