あるときその老人の馬が逃げていってしまった。
人々は慰めに行ったが、老人は残念がる様子もなく言う。
「このことが幸福にならないとも限らないよ」
しばらくしたある日、逃げ出した馬がよい馬をたくさんつれて帰ってきた。人々がお祝いに行くと、老人は平然と言う。
「このことが禍い(わざわい)にならないとも限らないよ」
しばらくすると、老人の息子がその馬から落ち、足の骨を折ってしまう。
慰めに行った人々に平然と言う。
「このことが幸福にならないとも限らないよ」
少しして戦いが起きる。そして多くはその戦いで死んでしまう。しかし、老人の息子は足を負傷していたため、戦いに行かずに済み、無事だった。
“人生は吉凶・災難と幸福が予想できない”
少しぐらいのピンチにも決して落ち込まず、また、好調時こそ慎重に、そんな気持ちで前向きに生きようということのたとえです。
この話は中国の古い書物『淮南子(えなんじ)』に書かれています。
「人間(じんかん)」は世間、世の中の意味です。
『人間万事、塞翁が馬』(じんかん ばんじ さいおうがうま)
この話は、私のとても大切な友人が、自分の大好きな話だと教えてくれた故事です。以来私にとっても大好きな言葉になりました。
今年のノーベル生理学・医学賞に選ばれた山中伸弥・京都大学教授の座右の銘でもあります。
この方は、学生時代柔道やラグビーで自ら骨折を10回以上経験し、整形外科医になることを志しました。
しかし、普通の人が20分ぐらいで終える手術を2時間もかかり、点滴も失敗するなどかなり不器用な方で、指導医からは名前をもじって、邪魔で足手まといの“ジャマナカ”と呼ばれていたそうです。
自分には向いていない、と研究の道に進み、幾度か挫折を繰り返しながら、今回のノーベル賞受賞にいたりました。
「iPS細胞」の“i”の字が小文字の理由は、世の中に広く広まるようにと、人気の音楽プレーヤーiPodにちなんで名付けたという茶目っ気もあります。
また、母親や家族思いで受賞の会見の際には、日本に対する感謝とともにご家族にも謝意を述べられていました。
ジョギングが趣味で、今年の京都マラソンでは研究基金として寄付を呼びかけるため完走されたそうです。
ユーモアにあふれ、感謝の気持ちを忘れず、体力作りにも励む。
まさに、心・技・体の精神、凡人ながら自分も見習いたいものです。
しかし、この中国の翁、関西人の私がその当時に出会っていたら、
「どっちやねんっ Σ\( ̄ー ̄;) バシッ」
と、ツッコミ入れまくりでしょう(*^_^*)