ピアノに必要なこと | 近藤嘉宏オフィシャルブログ「Brillanteな瞬間」Powered by Ameba

ピアノに必要なこと

僕は学生の頃からオペラや歌曲などの声楽曲やオーケストラが大好きで、


ピアノより断然聴く機会が多い。


歌はしなやかな息遣いから醸し出されるニュアンスに


心を大きく揺さぶられるし、


オーケストラは多彩な音色やパート同士の絡み合い、


それに広いダイナミックレンジで迫ってくる音のゴージャスさに


興奮させられる。




声楽は、声という人間の体の一部が楽器なので、


感情が直に込められる。


だから、聴き手への訴えかけもダイレクト。


そのため、良し悪しが他の楽器より判りやすいし、


スリリングさや感動はより増幅される。


声色やニュアンスが自在に操られた歌唱は、


息長いフレーズとなって丸いカーブを描く。




また、オーケストラは音色の異なる多くの楽器が一体となり、


まるで一つの巨大な楽器のように響く。


それぞれの楽器が歌い、掛け合い、


そして重なり合ってハーモニーとなる。




ピアノという楽器は打楽器的な要素を含むため、


こうした声楽やオーケストラの要素は


演奏する際にとりわけ重要になってくると思う。


ピアノでは一度打弦された音は減衰していってしまうけれど、


それを感じさせない表現技術を会得する上においては、


声楽のフレージングをイメージするのがとても効果的。


より柔軟で角のない歌い回し方をイメージできるし、


その結果フレージングも長くなる。


また内声の動かし方と相関性、


バスの役割や響かせ方、


ハーモニーバランス等の音楽における立体的な要素は、


オーケストラを聴くことによって


理想的なバランスのとり方やハーモニーが見えてくる。




留学時代、


僕は毎日のようにオペラやオーケストラコンサートに通った。


結構マニアだったので勉強のためとはあまり思っておらず、


半端ではない熱の入れようだった。


学生券を求めてアーベントカッセ(公演1時間前に開く当日券売り場)に並び、


とにかく観まくり、聴きまくった。


当時現役だった往年の名演奏家たちの演奏にも数多く接することが出来たし、


このような期間を集中して持てたのは


本当に幸運だったと思う。


ピアノの練習よりも断然熱心だったけれど、


これが僕の音楽経験の中でもとりわけ貴重な財産となっていて、


自分の音楽のベースになっていることを強く感じる。