早期の病院整備が必要なのに維持期病棟については悠長な記述で極めて不自然

 話が微妙で誤解を招く恐れがあるので、標題に掲げた維持期病棟については、他病院にはまったく関係なく、野洲市体育館病院計画に限ったものであることをあらかじめお断りしておきます。

 市長が決定した体育館病院計画では、すでに紹介したように、原案を修正して最終的に次のような記述になっている。

 「維持期の入院ニーズは当面減少しないと考え、障害者又は医療療養のいずれかで維持期1個病棟を設置することとします。なお、いずれを選択するかについては、開院までに現病院での状況やニーズを見極めて決定します。」

 この記述は市民には分かりにくい。ただし、早く新病院を整備しないといけないのに、「開院までに現病院での状況やニーズを見極めて決定します。」と悠長な記述になっているのは、極めて不自然であることはだれの目にも明らか。

維持期の入院型対応は正常な制度対応でない 維持期医療はかかりつけ医等が担う 維持期患者増えても入院ニーズは増えない

 計画では「維持期の入院ニーズは当面減少しない」としているが、急性期、回復期、維持期(慢性期、生活期)の区分のなかで、維持期を入院型で対応しようというのは正常な制度対応ではない。

 参考に掲げた厚生労働省の資料では、維持期の医療はかかりつけ医等が行ない、維持期治療としては、再発予防、基礎疾患・危険因子の管理等となっている。また、維持期リハビリテーションは、老健・通リハ等で担うことになっていて、両方が連携することになっている(「脳卒中の回復期~維持期の医療提供体制構築に向けた考え方(案)」より)。この体系からすれば、維持期の患者が増えるとしても入院ニーズは増えない。

維持期の内実は市組織内の綱引きではないのか?

 以前も書いたように今回の維持期病棟50床はどこから出てきたのか?市長や駒井次長は、病院職員からの「ボトムアップ」による提案で出てきたと説明したが、素直にそうは受け取れない。

 計画の「障害者又は医療療養のいずれか」という記述とこれまで入ってきた情報を基に推測すると次のようになる。

 市長と柏木顧問側は療養型病床を最大限増やしたい。他方病院側は一般病床が半減され50床になることを防ぎたい。そこで出てきたのが、障害者の維持期病棟。こちらの場合は、この制度がいつまで存続するかは別として、当面は診療・入院単価が高額であるため経営上有利。いわゆる稼げる。ただし、当然その分のケアは必要なので実利上有利かどうかは不明。

 また、制度の詳細は知らないが、障害者の維持期病床は一般病床扱いで、いつでも通常の一般病床に転換できるという話になっているらしい。もちろん、医療療養ではそれはできない。したがって、内実はこのような市組織内の綱引きではないのか?

 

 

障がい者の維持期病棟なら開院直前は無理 キツネとタヌキの化かし合いの裏に人権差別潜在の恐れ

 病院の経営戦略は重要である。しかし、上で述べた推測がどこまであっているかどうかは別にして気にかかることがある。それは、先に引用した「いずれを選択するかについては、開院までに現病院での状況やニーズを見極めて決定します。」のくだり。悠長さとは別に、本当に障がい者への対応を行なうのなら、もっと本腰を入れて方針を立て、総合的で体系的な施策対応が必要。開院直前に急遽障がい者対応にするなどといった発想は通用しない。

 そこで問題は、この計画は本当に当事者である障がい者の「生活の質(QOL:Quality Of Life)」と人権を尊重したものでなく、新病院の経営戦略とも言えない、市長サイドと病院サイドのせめぎ合い、例えれば、キツネとタヌキの化かし合いのようなものではないかということ。そして最も懸念されることは、ある意味で、障がい者を病院経営の手段と見る人権差別が潜在している恐れがあること。