(その1から続く)

 

⑤歩行不安定なひと

 マンションの上層階にお住いのLおばあちゃんは、歩きがままならないためなかなか出てこられない。交通量の多い道路に、ハザードをつけて長い時間駐車するのも気が引ける。

 

 さらに、その日の気分によっては看護師さんの呼びかけにも反応せず、なかなか乗ってくれない。子供なら抱えて乗せることもできるが、意外に体重があるLおばあちゃんにはそれも難しい。仕方なしに引っ張り上げることがあるが、私が看護師に介添えを頼まれるのは、Lおばあちゃんの時だけだ。

 

 雨の日はさらに大変!濡れないように傘を差し掛けるが、この努力もLおばあちゃんには全く伝わらない。加えて90歳過ぎのLおばあちゃん、コロナに2回感染したものの、かえって元気になった。

 

 もうおひと方。 「1,2、1,2、・・・」看護師さんがリズムに乗せて、汗びっしょりかいておばあちゃんの手を引いてきた。

 身体が前に傾いて足が前に出ない。ところが階段になると不思議に足が上がる。旦那さん曰く、以前はシャキシャキおばあちゃんだったそうだ。明日は我が身か・・・と思う。

 

⑥文句言うひと

 前述の通り、突然声を出す人、唄い出す人もいる。それを周りで黙って受け入れる人もいればそうでない人も・・・。

 

 「うるさい!ちょっと静かにしなさい」という彼は以前“検事”さんだったらしい。「わわわ・・・」を唄うM氏も「今日はばあちゃんに叱られたわ」ということも。

 

⑦朗らかなひと

 「今日は後方席盛り上がってますね!」と看護師に声をかける。

 「Kさんがいると会話がはずんで楽しそうです。×号車はいつも雰囲気がいいですよ」と。

 

 運転手としても車内で楽しく過ごしていただく方がうれしいに決まってる。K氏は元タクシー運転手。長年に亘って「笑顔」でお客さんを喜ばせてきたのだろう。

 

 実はK氏のように「この人どこが悪いの?」と思う人もいるが、看護師曰く、「1分前のことも忘れてるんですよ」と。「へー!」人は見かけによらない。

 

⑧昔の癖がそのままのひと

 「あれ!」迎えに行った看護士さんがなかなか戻ってこない。実は利用者さんがお漏らししていたので、着替えさせるのに戸惑っていたとのこと。

 但し、カッターシャツにネクタイはしっかりと!彼は大手タクシー会社のベテラン運転手だったそうだ。

 

⑨中止になるひと、戻ってくるひと

 「あっ!この方中止なんだ!」と、掲示板に“デイケア中止”の文字が・・・。

 「中止」とは症状が重くなって、デイケアでは足りず、施設に入所、入院するということ。精神疾患は外部の人からは見えないものの、運転手にも「この利用者さん、最近悪うなりような」の感覚は分かる。

 

 一方、入院が解けて、またデイケアに戻ってこられる方もいる。「久しぶりですね」の声が聞けるのはうれしい。

 

⑩駅送迎の常連さん

 月に4回程度は病院職員や病院利用者(患者・お見舞い人)の便宜を図るため、最寄り駅までの送迎を担当する。

 コロナ前は相当の利用者があったそうだが、今は午前・午後各5往復の中で、2,3人程度の利用者しかない。特に午後の便は利用者が少なくて、眠くて仕方ない。

 

 今日も名物のTおじいちゃんが乗ってきた。隣の介護施設入所中の奥さんを見舞うためだ。「運転手さんはもうこの仕事長いの?」といつも同じ質問をされる。そういう彼は以前は名うての人形師だったらしい。

 

 ところが病院内ではどこともなく徘徊されるので出入り禁止になっているそうで、送迎待ちの時間に建物裏で用を足されるのはちょっと困る。

 

⑪家族のお見送り、お迎えのあるひと、ないひと

 お迎えの時、看護師が自宅の中までお迎えに行くときもあれば、逆に家族に送られて、玄関(マンションの入口)まで出てきていただける方もいる。出てきていただけると時間がかからないので、運転手としてはありがたい。

 

 中にはご夫婦で出てこられて、我々に「よろしくお願いします」と挨拶され、出発する相方に手を振ってお見送りされるご家庭もある。(娘(息子)さんが付き添って出てこられる時も)

 送られるおばあちゃん、おじいちゃんの可愛らしい「笑顔」は運転手にとっても心の清涼剤になる。まさに家族の理想像やなと思う。

 

 「あら?もし自分がそうなったとき、カミさん(娘)はしてくれるかいな」とふと不安がよぎる。

 

 

6.デイケア担当者

 

 リハビリ主体のデイケアでは、看護師(准看護師)以外に理学療法士、作業療法士、言語聴覚士さんたちもいる。

 

 その中で、作業療法士のJ氏は、ちょうど私の息子ぐらいの歳でいつも朗らか。先に書いたM氏、L氏などちょっと手のかかる方々のお世話も率先してされる。丸顔で人懐っこい彼自身「これが天職だ」と言う。

 

 ただ人手不足は深刻で、デイケアの送迎に看護師長が同行したり、定年退職した看護師にパートとしてまた来てもらったり、派遣を入れたりと、法律で基準が決まっているだけに対応に苦慮している様子が伺える。

 

 加えて、デイケアの仕事は大変。

 利用者さんの症状に合わせて、グループ分けしてケアされているようだが、中には利用中に機嫌が悪くなって、突然出て行こうとしたり、他の人の邪魔をされることもあるそうだ。そのため、要注意の方はできるだけ早めにご自宅にお送りするよう、帰りの車の順を変えるなどの配慮をしている。

 

 一方利用者さんの家族から、クレームをもらうことも多々あるそうだ。もっともな理由の場合もあるが、そうでない場合もあって、学校でいう「モンスター・ペアレンツ」はココにもいる。

 

 

7.人生の縮図

 

 利用者さんは、下は70代中ばから上は100に近い人まで様々。平均80歳を超えている。

 ちなみに利用者さんの中でも、男所帯はより大変みたいだ。特に奥さんに先立たれた親父さんと、未婚の息子さんが同居している場合なんかが一番キツイ。仕事が忙しい息子さんは家のことまで手が回らない。したがって家の中もぐちゃぐちゃになっていることが多いらしい。

 

 その点一人暮らしを含めて、女性の方がしっかりしている。ただ出てくるのに時間がかかるのは女性が圧倒的に多い。歳とってもいろいろ気になることがあるんでしょう。

 

 利用者さんの中心は、自分らより上の世代、男性は高度成長期を支えてきた仕事人間。女性はその中で家庭を守られてきた方々。ただ、前述したように人生の終焉近くになってくると、その人の人生がよみがえってくるようだ。

 

 人生で十分に社会貢献されただけではなく、家族に「笑顔」で見守られ、「笑顔」で終焉の時を迎えられる人こそ、「いい人生を送った方」と言えるのではないだろうか。

 周りの人に対する「感謝」、周りの人との「愛和(仲良く)」、それに「笑顔」は、人生を豊かにする”必須条件”だと改めて思う。

 

(おわり)

 

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 読んでいただきありがとうございました。

 

 超高齢化社会の中、皆さんが知らなかった部分が垣間見えたのではないでしょうか。誰しも「死」は必ず訪れます。その時に「お前のおかげでいい人生だった」と、「笑顔」で言える人が横にいること。これが理想なような気がします。

 「あんた!人のことは言えんばい!」と・・・。

 自分もカミさんをもっと大切にせないかんわ!と思った次第です。

 

(追伸)

 前ブログで書いた「42年ぶりの一人暮らし」は、2022年6月12日をもって終了しました。実は徒歩1分の所に、新たに賃貸物件を見つけて、娘と孫がそちらに移り、私は元の鞘に戻りました。

 部屋が暑すぎたに加え、ふと「なんで俺がこんなところにおらないかんのや」という根本的疑問を生じたからです。つまりは面倒くさくなったんですね。

 

 「よう考えんで、いつも無駄使いばっかしてから・・・」とカミさんに相当叱られました。自分でも「アホやな」と思う反面、この3ヶ月間は知らなかったことを知るいい機会になりました。

 しかし、客観的に見ると「バカ」ですよね。”「バカ」は死ななきゃ治らない”を地で行ってるyoneさんを、今後ともぜひ応援してください。

 

ではまた!