③従業員代表制度の一元化

フランスの企業には、複数の従業員代表機関がある。

 

.「従業員代表委員DP

全従業員の選挙によって選出される従業員代表機関。もともと1936年、人民戦線内閣が制定した協約法で設置されたが、405月にドイツ軍によるパリ陥落後、対独協力政権(ヴィシー政権)によって廃止される。戦後の1946416日法で復活する。

 

2.「企業委員会」(CE

1945222日のオルドナンスと1946516日法で、企業経営や労働条件に関する情報提供と労使協議のための「企業委員会」が制定された。これは、経営者、従業員代表、各組合代表で構成される。

 

3. 「労働組合代表委員」(DS

これは、団体交渉と労働協約の締結の権限を持つ労組任命による機関である。

19685月のゼネストなど労働運動の盛り上がり(「5月事件」、「5月革命」との名称も使われる)を受けた政労使協議の「グルネル協定」により、企業内労組の活動が認められるようになった(19681227日法)。これによって、団体交渉と労働協約締結の独占権を持つ組合代表委員(労組の任命)という制度が誕生した。

これが3本柱と呼ばれるものだ。このうち従業員代表委員は、従業員11名以上の企業、企業委員会と労働組合代表委員は従業員50名以上の企業で義務付けられている。

 

4.「衛生安全労働条件委員会」(CHSCT

従業員50人以上の企業はさらに、CEDPが合同で選出するCHSCTを設置しなければならない。1981年にミッテラン社会党政権が誕生すると、従来の「衛生安全委員会」(CHS)に、「労働条件」が追加・補強されCHSCTに再編された(19821223日法)。さらに、毎年1回の企業内労使交渉が義務付けられるようになった。

 

このようにフランスの企業は、従業員が50名以上になると、個々の従業員を代表するDP、労働者全体を代表し団体交渉権を持つ労働組合代表のDS、労使協議を促進するCE、そして、衛生・安全・労働条件を専門的に扱うCHCTという複合的・重層的な従業員代表機関を置かなければならない。

 

これを統合し簡素化するべきだとの主張は、財界から起きた。

20151月、全国レベルの労使協議で、財界団体のフランス企業運動(MEDEF)は、規模の大小を問わずすべての企業に代表機関の設置義務を課すことと引きかえに、従業員代表機関を統合し、簡素化をはかることを求めた。これに対し、中小企業総連合(CGPME)が小企業の従業員代表機関設置に反発。労組側は、それぞれが独自の専門的役割を果たしている代表機関の一律の統合を警戒し決裂した。

この事態にたいし、オランド政権は、労使双方と協議をし、政治主導で「社会的対話と雇用に関する法律」にまとめ成立させた(通称「レプサメン法」723日成立、817日発効)。

これにより、中規模事業所(従業員50人以上300人未満)の場合、従業員代表委員(DP)、企業委員会(CE)、衛生・安全・労働条件委員会(CHSCT)の3制度を統合し、従業員単一委員会(DUP)に一本化が可能となった。大規模事業所(従業員300人以上)は、職場選挙での得票が合計して過半数となる労組(過半数労組)の同意あれば、この統合が出来ることになった。小規模事業所(11人以上50人未満)は、現行制度(従業員代表員の選出義務)が維持される。

 マクロン大統領は、この統合・簡素化の方向性をさらに進めるという。

 
以上、3回にわたって、マクロン大統領が進めようとしている、①企業単位の労使合意の優越、②労働裁判所判決による賠償金の上限設定、③従業員代表機関の一元化の3点について触れたが、マクロン大統領の具体的な提案はこれからであるため、主に制度の紹介が中心となった。
 しかし、いずれも自ら経済相として参加したオランド大統領下のバルス政府(内閣)の政策と方向性が同じであることが、わかっていただけたと思う。
 さらを、「オルドナンス」(特別な政令)で進めようという決め方の問題がある。
 これを次回、取り扱う。