こんにちは、社会保険労務士の横山 勝です。
最近、経営者や管理職の方々から、「社員を注意したり、厳しく指導したりするのが本当に難しくなった」という声をよく耳にします。
以前のように、仕事のミスや態度について率直に指摘しようとすると、「それはハラスメントではないか」「パワハラだと受け取った」といった反応が返ってくることを恐れている方が多いのです。
ハラスメント意識の高まりが生んだ「指導のためらい」
これは、近年社会全体でハラスメントに対する意識が大きく高まったことの、ある意味で「副作用」とも言える現象だと感じています。
もちろん、不当な叱責や人格を否定するような言動は、決して許されるものではありません。
ハラスメントの防止は、働きやすい職場を作る上で極めて重要です。
この意識の高まりは、健全な職場環境への第一歩であることは間違いありません。
しかし、その一方で、「少しでも厳しいことを言えばハラスメントになるのでは?」という過度な不安(いわゆる"ハラスメント疲れ")が、上司や管理職の間に広がり、本来必要な「指導」や「育成」をつい後回しにしてしまうという事態が起こっています。
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「ロジックで言わないと『根性論だ』ととられそう」
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「優しい指導をしすぎて、結果的に若手の成長機会を奪っているのではと悩む」
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「管理職の発言一つひとつにビクビクしている」
このような状況は、組織にとっても、成長機会を奪われた社員にとっても、決して良いことではありません。
指導する側の葛藤と「共感」の重要性
指導する側の方々の葛藤は痛いほどよく分かります。
「ハラスメントは絶対にいけない」と理解しているからこそ、「適切な指導」と「ハラスメント」の境界線がどこにあるのかが分からず、声が出しにくくなってしまうのです。
その結果、「波風を立てるよりは何も言わない方が安全」という選択をしてしまいがちです。
しかし、僕は、「適切な業務指導はハラスメントではない」ということを、改めてお伝えしたいのです。
問題なのは、「何を言うか」ではなく、「どう伝えるか」です。
「注意しづらい」時代を乗り越えるための視点
では、この難しい時代に、どのように適切な指導を行うべきでしょうか。
1. 目的の明確化(何のためか)
指導は、「社員の成長」と「業務の適正な遂行」が目的です。
感情的にならず、「なぜその指摘が必要なのか」を論理的に、かつ相手の成長を願う気持ちを込めて伝えることが大切です。
2. 具体的な行動へのフィードバック(どうすれば良いか)
人格や能力そのものを否定するのではなく、「具体的な行動」に焦点を当てて指摘します。
「君はダメだ」ではなく、「この資料のこの部分について、次回から〇〇のように改善してほしい」というように、何をどう変えれば良いかを明確に伝えましょう。
3. 日頃からの信頼関係の構築(土台作り)
日頃からコミュニケーションを取り、良い点も評価している信頼関係が土台にあれば、いざ厳しい指摘をしたときも、「自分のことを思って言ってくれている」と伝わりやすくなります。
褒めることと指摘することをバランスよく使い分けることが重要です。
まとめ:恐れず、期待を込めて伝えることが、未来を作る
「注意しづらい社員」が増えた背景には、ハラスメント意識の高まりという社会的な変化があります。
指導する側の皆さんが抱える「ハラスメントへの恐れ」と「育てたいという気持ち」の板挟みは、決して特別な悩みではありません。
しかし、その「ためらい」が、必要な教育の機会を失わせ、結果として組織の成長を停滞させてしまうことになりかねません。
僕は、「適切な指導は愛である」という信念を持ち、恐れることなく、具体的な行動と未来への期待を込めて伝え続けることが大切だと考えます。
そして、その指導がハラスメントと誤解されないよう、客観的なルール作りと効果的な伝え方をサポートすることで、指導する側の皆さんの「不安」を「自信」に変えるお手伝いをさせていただきます。
「指導は、社員への期待と成長の機会を与える、大切なコミュニケーションです。」