3月16日のレコ発ライブ第二弾終了で、

しばらくご無沙汰だった映画鑑賞復活です。

 

 

印象に残った「落下の解剖学」。

 

 


スイスの山荘に暮らすベストセラー作家の妻サンドラと

作家としての暮らしがままならず教師を勤める夫ヴァンサン、

そして視力を失った10歳の息子ダニエルと愛犬スヌープ。

 

普通に過ごしていたある午後、ヴァンサンの

死体を息子が発見したところから展開していきます。

 

疑いはサンドラに向けられ、現場の証言者は

盲目の息子しかいないことから息子の証言に

裁判の行方が大きく左右されて行きます。

 

私が読んだ映画の解説では、盲目の息子の精神世界の

紐解きのような書き方がされていて、そこに期待しましたが

実際は「法廷劇」でした。予想と違いましたが、

それはそれで、どっぷりはまりましたよ。

 

特徴的だったのは、ヴアンサンの死に至るまでの

登場人物たちの関係値やバックグラウンドの説明や

解説、回想シーンなどが一切出てこないんですよね。

どうしてダニエルが視力を失ったのか、

弁護士とサンドラの間の関係は、など、重要な

プロットは沢山あるのですが、

まったく説明はされない。

「現在」が淡々と進行していくだけ。その中にでてくる

セリフから観る側が推測と憶測を重ねていくだけ。

 

そして、物的証拠も状況証拠も決定的なものが無く、

何がヴァンサンを死に至らしめたのかについて

(サンドラが犯人であった場合を除いて)

登場人物すべてが推測と憶測を重ねるしかない。

この点においては観客と劇中人物が同等の立場になって

しまうわけです。

 

そして私がもっとも興味深いと感じた点。

(ここから先はネタバレになるのでご注意)

 

警察が最後に「決定的証拠」であるかのように

ヴァンサンの死の前日の夫婦の争いの

音声が録音されたUSBを出してきます。

 

激しく争う夫婦のやりとりは、夫婦間の感情を

表すものではありました。

ガラスが割れる音、何かを殴る音、ヴァンサンが呻く声。

しかし視覚情報が無い中では誰が何をして何が起こったのか

何も証明していないのですよね。

 

音だけの世界。

それは「盲目のダニエルが抱える不確かさを

見える私たちも抱える」ことでした。

そこに気が付いた時、ドキッとしました。

 

そして客観的な真実・事実の発見が無いままに

法廷では個々の選択に従って結論が出されて行く。

人々は選択しながらもどこかに不安を残している。

証拠不十分のまま解放されたサンドラは

祝杯を挙げながらも、失ったものが戻らないことに

気づきます。

 

法廷ドラマやサスペンスは殆ど物語の中で犯人が

明らかになるのですが、現実の世界では「証拠不十分」

による未解決が溢れていますよね。

その意味で、とても現実的な映画だと思いました。

 

あ、忘れちゃいけないのが「犬」

愛犬スヌープを演じたボーダーコリーの「Messi」君。

パルムドッグとしてアカデミー賞の会場にも出席していたそうです💓

「犬映画」としても大満足の一作でした。