4回目です
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ボクの通う高校は一応、進学校。
だけど
家の事情もあり就職することになった。
春から夏の終わりまでは無気力の神様が舞い降りて、ボクは途方にくれていた。
就職説明会には2、30人しかいなかった。
「なんで岸くんが就職するの?」
なんて聞かれたけど上手くは答えられなかった。
進路担当の先生には
「お前の入りたい会社を紹介するからどこがいい?」
と言われたけど
「一番給料のいいところ」
としか言えなかった。
そうとうヘソが曲がっていたよ。
さて、バイト二日目。
今日も出番は福島店長と直美ちゃん。
夕方5時は夕食には早いのかお客さんもまばら。
「ちょっと岸くん」と店長の声
呼ばれて行ってみると
「この樹の葉っぱを拭いてくれる?」
観葉植物を指しておっしゃった。
「あ、はい」
田舎者のボクには店内に植物があるのも違和感あるが、葉っぱを拭くという
概念がないので一瞬びっくりした。
なんていう植物か分からないけど、葉っぱを雑巾で拭く作業。
よっぽど店長は綺麗好きなのかな。
それともバイトくんを遊ばせるのが嫌いなのかな。
一通り葉っぱ拭きが終わりセンターに戻った。
センターとはお冷や箸などが置いてある厨房と客席の間の場所。
ちなみに直美ちゃんはレジ打ちが定位置。
ここのレストランは先に会計のスタイル。
サービスエリアはこのスタイルが主流だ。
直美ちゃんがフラフラっとボクのところに遊びにきた。
「福島店長って堅いんですよ。バイトが暇そうにしてると、何かやらせるから気をつけたほうがいいですよ」
「そうなの?まあ、暇してるよりいいかなと思ったけど」
「私なんか、この前テーブルの裏側を拭かされましたよ。まったく意味わからない」
「小さい子なんか鼻くそつけそうだから危険だね」
「アハハ。だけど、先輩変わらないですね」
「そりゃあ、部活辞めてそんなに経ってないし」
「先輩って、女子から『妖精のような先輩』と言われてたんですよ」
「あっ、やばい」
二人で喋っているのに気づいた店長がこちらに歩いてくるのを見て、直美ちゃんはすぐにレジに戻った。
直美ちゃんの危険察知能力は高いようだ。
だけど、『妖精』とはなんだろう。
そもそも褒め言葉なのか?それとも違うのか?
気になってしかたない。
ここのレストランは、6時から混んでくるので二人増員される。
今日は落合誠一と真中さん。
落合とは幼稚園から中学校まで一緒だった。
大人しくて人と話すのが苦手だったはずだが、真中さんと仲良く話している、それも饒舌に。
落合、高校で何があったんだ!
真中さんは初対面。
小柄で可愛らしいレストランのアイドル的存在。
みんなにチヤホヤされている。
団体客が入り忙しくなった。
ボクも慣れないながらも一生懸命動く。
まだ無駄な動きが多いのはしょうがない。
今日はコーヒー3杯にチャレンジした。
左手にコーヒーカップの一部を重ねて持ち2皿、右手に1皿。
レッツゴー。
ゴールは遥か彼方の、ロング・&ワインディングロード。
のろのろ歩きながらなんとかたどり着く。
「お待たせいたしました」
コーヒーカップをカチャカチャしながらも置くことができた。
お盆を使ったほうが速いのにね。
ほっとすると、大滝詠一の『カナリア諸島』が聴こえてくる。
『カナリア~アイランド~カナリア~アイランド~風は動かない~』
この曲が好きになってきた。
空いてきても、ボクはお冷サービスや中間バッシングをする。
中間バッシングは、食事が終わりお客さんが帰ったあと、効率よく片付けられるので
手が空いたときに行うよう、店長に言われていた。
ふと、後ろを見ると、落合と真中さんが厨房の人とお喋りをしている。
ここにいると、いろんな人間模様が分かりそうだ。