2009年10月22日、任天堂は、ニンテンドーDS(以下DS)の新型、ニンテンドーDSi LL(以下DSiLL)を発表しました。発売はなんと約1ヶ月後の11月21日。年末商戦直前に、注目ハードがいきなり1つ増えたことになります。

 DSiLLの最大の特徴は、なんと言っても画面の大きさ。ニンテンドーDS Liteと比較して93%増といいますから、単純に2倍近くも大きくなるわけです。もちろん、画面が2倍になれば本体の大きさもそのままというわけにはいきませんから、ひとまわり、ふたまわり大きくなります。

 今回は、このDSiLLをご紹介しようと思うのですが、ゲーム業界ニュースで注目したいのは、携帯ゲームハードを大きくするということの意味です。本来、持ち運ぶことができるというのが携帯ゲームハードの優位性でありますから、進化の発想としては当然小型化です。そこをあえて、大きくしてしまったのがDSiLLです。

 大きくしたら、当然、携帯性は低下します。携帯ハードなのに! 何の意味があるんだ! というのがお題目です。

■大きく、重たく、高く

 何はともあれ、DSiLLが今までのDSとどう変わったのか、ポイントを押さえつつご紹介していきたいと思います。最大の特徴は、上述の通り大きくなった画面です。サイズで言うと4.2型。縦横比が違いますが、PSPの液晶のサイズにかなり近いものです。ここで注目しておいていただきたいのが、視野角。画面が大きくなっただけでなく、視野角も広くなりまして、要は真正面から見なくても、ちょっと横からでも画面が見やすくなった、ということです。このことは、DSiLLというハードの位置づけを考える上で、わりと大きなポイントです。

 気になるお値段は20,000円。ニンテンドーDSiの18,900円からさらに1,100円高くなりました。Wiiが値下げされて20,000円になりましたので、同価格となります。据え置きハードのWiiと同じ値段というのは、やっぱりちょっと高く感じますね。

 それから、DSiに比べて、充電池が長く持つようになりました。画面が大きくなったのに? と思われるかもしれませんが、ハードが大きくなった為、バッテリーも大きい容量のものが使えたのではないかと想像されます。

 最後に、意外とメディアで取り上げられていない気がする重要ポイント、重さです。従来のDSiから100g増量されました。100gと書くとたいしたことないような気がするかもしれませんが、DSiの重さが214gで、DSiLLが314gなので、約1.5倍です。結構重たく感じるのではないでしょうか。

 大きさ、重さ、価格、ことごとく携帯ゲームの優位性を放棄しているDSiLL。その狙いはいったいどこにあるのでしょうか?

■ポケットの中ではなく、家の中を狙う携帯ハード

 DSiLLは何故大型化したのか。そのご説明をするには、そもそも携帯ハードが小型化する理由を考える必要があります。それは、ある場所を取り合っているからです。

 人が移動時に物をしまっておく場所の特等席、そうポケットの中です。2009年11月1日に発売されたばかりのPSP goは、DSiLLとは逆に、大変な小型化を実現しました。おそらく、ポケットの中に納まるサイズというのは意識しているでしょう。一方、DSiLLは全くポケットなんて狙っていません。入りませんから。

 じゃあ、どこを狙っているのか。それは、家の中でしょう。そもそも、みんなでポケットの中を狙っているからといって、携帯ハードが必ず持ち運ばれて遊ばれているかというと、実はそうでもありません。携帯ハードは外でも遊べますが、家の中でも遊べるんですから。据え置きハードより気軽に遊べるから、自分の部屋で遊べるから、ベッドの上でねっころがって遊びたい、そういった理由で、外に持ち出しはしないけど携帯ハードがいい、という人はそれなりにいるんじゃないかと思います。

 そこで、DSのバリエーションとして、家の中で携帯ゲームハードを遊ぶ人に焦点を合わせた商品展開を考えるとどうなるか。外に持ち運ばないノートパソコンのようなものを想像すれば分かりやすいかもしれません。家の中では持ち運びができて、自由な場所で使えるけど、外に持ち出さないので多少大きくても、重くてもかまわない、その分大きな画面で遊べるようにしよう。はい、まさしくDSiLLのような商品が誕生します。家の中で遊んでもらうことを狙った携帯ゲームハードです。

■電車の中でやるんだったら視野角なんて狭い方がいい

 家の中で遊ぶ携帯ハードという方向性を決定付けるもう1つの理由があります。それは、視野角です。視野角というのは、広ければ広いほどいいというものではありません。用途によって変わるべきものです。そこに、DSiLLというハードが選択した方向性が垣間見えます。

 先ほど、DSiLLをノートパソコンに喩えましたが、ビジネス用のノートパソコンというのは、わざと視野角を狭くしているものがあります。なんの為でしょう? 外に持ち出して使うためですね。外出先でメールなどを打つ場合に、周りから画面が見えない方が望ましいからです。

 携帯ゲームハードでも、外で遊ぶ場合を想定するなら、視野角が広い方がいいとは限りません。電車の中でやっていたとして、周りに何のゲームか見えて欲しい、という状況はあまりないでしょう。むしろ、横に座ってる人には画面なんて見て欲しくないと思うことの方が多いのではないでしょうか。

 しかし、DSiLLは視野角を広くしました。そしてそのことを公式サイトなどで大きく謳っています。友達や家族が集まった時、みんなで画面を見れるように広くした、と。

 ノートパソコンと同じで、外で使うものなら視野角は狭いほうがいいんですが、プライベートな空間に置いておくなら、視野角を広くしておくことで、画面をみんなで見ることが可能になります。内蔵のカメラで撮った写真をみたり、ゲームをしているところを横から覗いたり。広い視野角の選択は、DSiLLが使われる場面、空間、そういったものの方向性を打ち出しているんです。

 本体の大きさと重さから携帯性は犠牲にして、その代わり家で遊ぶのに適したスタイルを提供するDSiLL。それは、もしかしたら新しいゲームハードの位置づけを模索するものになるかもしれません。

■携帯ハードでもなく、据え置きハードでもない

 DSiLLは、携帯するにはやや大きすぎて従来品よりも不便です。そして、家の中で使われるといっても、据え置きハードではありません。その中間、変な造語ですが、据え置かないハード、というぐらいの位置にある商品だと思います。

 この不思議な位置取りをしたハードがどういう売れ方をするのかは、ちょっと見ものです。何故なら、この商品はユーザーに選択肢を与えて判断を仰いでいるからです。やっぱり小さくて持ち運びに便利な方がいいのか、それとも、実は携帯ハードと言っても家で遊んでいて、携帯性はそれ程重要ではないユーザーも多いのか。

 後者の選択が予想以上に大きかった時、今後の携帯ハードのあり方に大きな影響を与える可能性があります。携帯ハードは、持ち運びやすいことが最重要だという考えが見直されることになります。家の中で使うノートパソコンのように、携帯しない携帯ハードという進化が追求されるなら、それはゲームハードに新たな形をもたらすかもしれません。

 据え置きハードと携帯ハードの間のような存在が受け入れられるのか、はたまたどちらかに特化することが求められるのか、DSiLLの今後が非常に楽しみです。