五穀豊穣への始まり | フーテンの横チン

五穀豊穣への始まり


2014・5・10~愛媛・東温市~
 スカッと晴れた空の下、井内北間の棚田にやってきた。桜の季節だった1カ月前は大雨だったから、めっちゃ気持いい。ほとんどの田んぼで田植えが終わっていたので、ちょっぴり残念な気持ちで棚田の間の小道を歩いて登っていくと、上のほうで子どもたちの黄色い声が聞こえる。地元の西谷小の児童と先生、保護者、地域のみなさん約90人が苗を植えていた。子どもたちは手足はもちろん、顔も泥んこになりながら、せっせとていねいに植えつけている。「先生、さっきサボっていたでしょ?」とか「こらっ、泥を投げちゃダメでしょ!」なんて声が飛び交ったが、みんな楽しそうだ。

 「みんな、泥遊びをしている感じなんでしょうね」。先生は笑いながらも、なんだかうれしそう。西谷小では自然体験教室として年8回、田植えや稲刈りをはじめ、大豆を育てたりしているという。こんな広大な自然に囲まれているんだもんね。都会に住んでいたらできない経験を味わえるなんて、めっちゃ幸せなことだ。田舎育ちのオッサンも小学校の時、近所の田んぼで田植えや稲刈りをした経験があったから、とても懐かしかった。

 「あら、来られてたの?」。声のほうへ振り向くと、鶴見さんがいた。「えひめ千年の森をつくる会」で植林や農業などの活動を行われており、過日に仕事でお世話になった。その時、当地の棚田のことを聞き、田植えの時期に訪れてみたいと思っていた。「お昼から、ウチの田んぼで田植えするから」。子どもたちとの田植えを終えたばかりというのに。せっかくなので、その光景を見学させてもらった。

 「1年ぶりに動かすから、大丈夫かしら」。ちょっぴり心配そうだったが、静かに手を合わせて目を閉じ「今年も無事に収穫できますように」と祈った後、田植え機で1列ずつていねいに苗を植えつけていった。田んぼは真四角じゃないから、簡単には植えられない。何度も方向転換しながらも、きれいに作業を終えられた。さすが職人です!秋にはまた、黄金色に輝く稲穂を見に来ますね。

 あぜ道を歩いていると、いろんな生きものに出会えるのも楽しみのひとつだ。水の中をスイスイと泳いでいたのがヌマガエル。ヘンな黒い物体を抱えている人間を横目で警戒しながら見ている。なんだか、泥温泉に浸かっているようにも見えた。

 おっ、イモリだ。昔、バケツいっぱいに捕まえて家に持って帰ったら、オカンにどやされたことがあったなあ。

 田んぼの上では、トンボが交尾をしていた。昆虫たちにとっては繁殖の季節でもあるんだなあ。

 葉っぱの上にはアオガエルがいた。草木と同色化して隠れているつもりなんだろうけど、見えていますよ~。

 夕暮れ時、少し歩いて、お寺の反対側へ。鶴見さんに「建物が入らない場所があるから」と教えてもらった場所に向かった。なるほど、確かに。陽光に照らされて、棚田の水面が輝いてきれいだ。カメラを置いて、しばらく休憩。のどかだなあ。

 約1時間後、山裾に太陽が沈み始めた。空はもちろん、水面もオレンジ色に変化した。めっちゃきれいだ。昼の棚田もいいけど、夕暮れの棚田も絶景だ。松山市の隣には、こんな日本の原風景が残っている。100年後も、こんな景色が残っていれば…。日本人であることを誇りに思う瞬間でもあった。