前田愛。近代読者の成立 | mizusumashi-tei みずすまし亭通信

 

戦前のユーモア小説を読んでいると、大正時代、特に関東大震災があった大正12年あたりからユーモアの質が変わってくるような気がする。明治な作家の佐々木邦は、どこかユーモアのなかにも教養や修養をにじませている。それが、昭和の中野実となるとカラリと変質する。

 

明治末の青鞜が提唱する「新しい女性」は、昭和になるとモダンガール・モダンボーイ(モガ・モボ)と呼ばれ、かつて修養であったものが文化と呼ばれ、それらは享受消費すべきものに変質していく。

 

では、大正時代になにがあったのか? となると、ひとつにはマスメディアの発生だろう。明治後半に女学生向けに発刊が始まった婦人雑誌が発行部数を急速に伸ばし、新聞もまた「続きもの」といわれる新聞小説は女性たちに支持される。その最大の担い手が菊池寛であり『真珠夫人』だった。

 

大正から昭和戦前に女性誌に連載された多くの大衆小説群は、マスメディア(という観念すらなかった時代に)暴走すると社会を大きく変えていった。たわいのない無内容とも思われたユーモア小説や大衆小説といった膨大な出版物の一編々々のなかに、人々の人気じんきを変容させる恐るべき力を有していたことになる。

 

詳しくは、前田愛『近代読者の成立(1973)岩波現代文庫』や、松山巖など1920年代のモダニズムを解析した多くの書籍がある。