M.C.スミス:ポーラー・スター(1989)新潮文庫
米ソ冷戦時代(おそらく1970年代終盤から80年代ペレストロイカの風吹くころ)のお話。主人公はかつてのソ連、人民警察殺人担当主任捜査官アルカージ・レンコ。前作『ゴーリキー・パーク』で上層部に逆らったために党員証を剥奪され、現在はKGBの目をかいくぐりながら、シベリアでトロール船ポーラー・スター号の二級船員として曳網漁に従事している。
しかもペレストロイカを目前に、ポーラー・スター号はアメリカの船団と合同で漁をするという事業を展開していた。そんななか、引き上げた底引き網に女性船員の死体が見つかる。レンコの前歴を知る船長の指示でその捜査を命じられるが、米ソ合同船団事業でもあり捜査は難航、KGBの思惑や謎の人物に襲撃されるなどレンコは絶えず死の恐怖に脅かされる。
M.C.スミスによるアルカージ・レンコを主人公とした傑作シリーズで、初編『ゴーリキー・パーク(1981)ハヤカワ文庫』は映画化(1983)された。船内の構造に暮らし、仕事ぶりなどが克明に描写、ロシアの詩片が散りばめられ、ほのかな恋も語られる内容で奥深い語り口が楽しめる。久しぶりの再読。
ゴーリキー・パーク(1981)ハヤカワ文庫
ポーラー・スター(1989)新潮文庫
レッド・スクエア(1992)福武書店
ハバナ・ベイ(1999)講談社文庫
ローズ(1996)講談社文庫:単独作品
このシリーズは『ローズ』以外の上記4作が翻訳されている。なぜか、すべて出版社が別々なのが、不思議。
この機会に、読み残していた第3巻『レッド・スクエア』をネット古書店で入手した。ところで『ポーラー・スター』の表紙絵を飾るのは、アレクサンダー・ケント「ボライソーシリーズ(早川書房)」の表紙絵などで知られる船舶画の第一人者・野上隼夫である。すばらしい。
長岡市中央図書館
昨日は夕方から気温が下がりはじめ、降り出した雨は夕方から雪に変わり、電線や樹々にまとわりつくと街灯の灯りに美しい樹形をあらわした。