片岡義男の小説。評論や随筆との落差に驚く | mizusumashi-tei みずすまし亭通信

古川琴音

 

昨ブログで、原節子が主演した『お嬢さん乾杯(1949)』のイラストを描いたことで思い出したのが、片岡義男の映画評論『彼女が演じた役(1994)早川書房』で、サブタイトルに「原節子の戦後主演作を見て考える」とあるごとく、本書で『お嬢さん乾杯』について書かれていて、久しぶりに再読。

 

片岡には『映画を書く 日本映画の謎を解く(1996)文藝春秋』という快著もあって、こちらはひたすら映画ストーリィーをまんま文章化するだけの内容なのだが、なぜかこれが面白い。後に文庫化。かと思うと『日本語の外へ(1997)筑摩書房』『日本語で生きるとは(1999)筑摩書房』といった語学エッセイが評判になり『日本語の外へ』は後に文庫化。『英語で言うとはこういうこと』は翻訳家としての片岡の面目躍如たるものがある。

 

片岡義男:ミス・リグビーの幸福(1985)早川書房   

片岡義男:彼女が演じた役(1994)早川書房      

片岡義男:英語で言うとはこういうこと(2003)角川新書

 

もっとも、片岡義男といえば『スローなブギにしてくれ(1976)』『メイン・テーマ(1983 - 84)』などの80年代的作品で知られている。そこで、片岡の短編連作の小説『ミス・リグビーの幸福』なのだが、主人公のアーロン・マッケルウェイは21歳の私立探偵で、ホルスターには357マグナムをおさめ、ジープ社製の四輪駆動ピックアップ・トラックをカルフォルニアの空を見上げては走らすのだ。まるでプラスティックみたいな主人公が依頼の顛末を語ることになるのだが…

 

片岡義男の小説の(当然ながらわざとなのだろうが)このリアリティのなさはなんとしたことか。バブル期の居眠りした頃の日本の空をカリフォルニアの空とすげ替えてもどーということもなかったのだろうが、21歳の私立探偵がアメリカのピーカンの空の下活躍?するお話を(日本向けに)書く必要があったのだろうか?評論や随筆との落差がすごすぎないか。

 

イラストは最近なにかと話題の古川琴音を。