昼は野に遊び、夜になるとふたりは向きあって長いこと話し込みます。バスチアンはファンタージエンでの経験を包み隠さず話すことができました。自分が重傷を負わせた‥あるいは殺してしまったかもしれないアトレーユのことも‥。

 「ぼく、みんなまちがったことをしてしまった。みんな、考えちがいをしていたんです。月の子は、ぼくにたくさんのものをくださったのに、ぼくはそれでもって、自分にもファンタージエンにも、わるいことばかりしてしまったんです。」

 アイゥオーラおばさまはバスチアンを長いこと見つめていましたが、やがてこう言いました。

 「いいえ、わたしはそう思わないわ。あなたは望みの道を歩いてきたの。この道は、けっしてまっすぐではないのよ。あなたも大きなまわり道をしたけれど、でもそれがあなたの道だったの。どうしてだか、わかるかしら?あなたは、生命の水の湧きでる泉を見つければ、帰れる人たちの一人なの。そこは、ファンタージエンの一番深く秘められた場所なのよ。そこへ行く道は、簡単ではないわ。…そこへ通じる道なら、どれも、結局は正しい道だったのよ。」

 それを聞くと、バスチアンはいきなり泣きだしました。あとからあとから涙が出て止まりません。胸の中の固くなったわだかまりが溶けだして、涙となってあふれ出したような感じでした。

 アイゥオーラおばさまはバスチアンを膝に抱きあげ、優しく優しくなでてくれました。バスチアンはおばさまの胸の花の中に顔をうずめて、思う存分、疲れきるまで泣いたのでした…。


 未熟さゆえにあっちにぶつかりこっちにぶつかり、つまずいたり転んだり‥人生はそんなことの連続のように思います。でもその時々の自分に正直に、精いっぱい生きていると、自分の行くべき方向へと道は続いて行くような気がしています。

 良いことも悪いことも、正しいことも間違いも、すべてが糧となって人間は成長してゆきます。今の失敗が決して未来の失敗を意味することはありません。失敗から何を学ぶかが、未来の結果の重要な鍵なのです。

 面白いことに、人間は失敗のほうからより良く、より深く学べるものです。「したくないのにしたほうがいいもの」―あるいはそれが‘失敗’というものなのかもしれませんね。

                                    Buona Fortuna!
引用、参考は前回に同じ