霧の海のむこう岸に続く道―それはさまざまな色のバラが咲き乱れる森に続く1本の小径(こみち)でした。途中木彫りの道しるべがあり、そこには「変わる家」と書いてあります。バスチアンは迷うことなくその道をまっすぐ歩いてゆきます。

 しばらくすると、一件の家が見えてきました。それは見たこともないほど面白い家…だって、ゆっくりゆっくり絶え間なく、形を変えていたのですから!

 あまりに面白いこの家のトランスフォーメーションを眺めながら、しばらくバスチアンは立ち尽くしていましたが、やがて家の中から温かな声で女の人が歌っているのが聞こえ、引き寄せられるようにドアへと向かいます。

 その歌はこんな不思議な歌詞でした‥

 カラオケもう百年ものながいあいだ 待っていたのよ お客さま。 ここへの道を見つけたのだから、あなたにちがいはありません。 のどがかわいたでしょう、おなかがすいたでしょう、みんな用意ができてますよ。 さがしているものも 欲しいものも、 やすらぎも なぐさめも。 つらいことがいっぱいだったわね。 いい子だったにしろ わるい子だったにしろ、あるがままでいいのです。 だって あなたは 遠い遠い道をきたのですから。 

 …ふつうの物語だったら、魔女を連想するところですね(笑)。 

 でもバスチアンはどうしようもなくその声にひきよせられ、ドアをノックしてしまいます。

 「お入り、お入り、わたしのかわいいぼうや!」

 ドアを開けるとそこは居心地のよさそうな日当たりのよい部屋で、まん中の丸いテーブルには色とりどりの果物がいっぱい盛られた鉢やかごがところ狭しとのっています。そしてテーブルの前には、頬が赤くふっくらとした、健康でみずみずしい印象の女の人がひとり座っているのでした。その女の人自身がどこかリンゴを思わせる、とてもやさしげな人でした…。

                                    Buona Fortuna!
引用・参考は前回に同じ