初回視聴率9.5%をとった吉高由里子主演のTBSドラマ「わたし、定時で帰ります」。

「働き方改革」という時代性に合ったテーマを、広告業界という「働き方改革」から一般的には縁遠いと思われている業界を取り上げた点は面白いし、ドラマとしても面白い。

(本当は「働き方改革」から最も遠いテレビ業界を取り上げていたらもっともっと面白かったが、原作がそうでなかったし、そうしてしまうと自分たちの業界に矛先が向いてしまうから難しかったかもしれない。)

が、面白いドラマであるものの、ちょっとだけいくつか違和感が。

まず、「脱ゆとり世代」である今年の新入社員が、「ゆとりモンスター」的にとんでもなくひどく描かれている点。

ドラマ上で若者をとんでもなくダメに描く、というのは昔の金八先生で描かれていたヤンキーのように、昭和の古い手法を未だにやっているように感じてしまった。

若者がおかしい方がドラマとしては描きやすいのだろうが、昭和の反抗する若者と違い、今の若者はシャットダウン型。

パワハラを受けた上司のパソコンのパスワードを勝手に変え、会社を突然辞め、上司の悪口を書いた手紙を残し、上司が土下座したら変更してしまったのパスワードを教える、と言い放つ若者は、昭和型の若者にはひょっとしたら多かったタイプかもしれないが、今の若者でそんな労力を使って上司に復讐しようと思う人は少なくなっていると思う。

未だに「若者と言えば反抗」という旧ステレオタイプの若者の描き方をしているなあ、とちょっと若者研究をしている立場として残念に感じた。

次に、このドラマにはリーマンショック後入社の「新就職氷河期世代」(元祖・就職氷河期世代は団塊ジュニア世代)の若い上司二人(吉高由里子とシシド・カフカ)が登場する。

吉高由里子は「働き方改革推奨派」。

シシドカフカは「モーレツ社員派」。

しかし、ともに過去のトラウマからこの2タイプに分化している。

吉高由里子は、新入社員の時に働き過ぎて体を壊したトラウマから「働き方改革推奨派」に。

シシドカフカは新入社員の時にできが悪くて会社でいじめられたトラウマから「モーレツ社員派」に。

どちらも根っこは同じで、働くことと真剣に真摯に向き合い過ぎた結果、それぞれ極端なタイプに分化した、という設定だ。

が、今の「脱ゆとり世代」の若者が重視する価値観は「チル(まったり)」。

そもそもプライベートより労働の方が大切だなんてはなから思う人が少ない世代。

過去のトラウマなんてなくても、そもそも「働き方改革」や「ワークライフバランス」が人間の権利として当たり前だと思っている人が多い。

いや、吉高由里子、シシドカフカの「ゆとり世代」だって、既にこうした価値観になっている人が多いはず。

つまり、働き方に対する世代間の価値観の違いとその葛藤を描こうとし過ぎて、吉高由里子・シシドカフカ世代を、あたかも昭和型の、働くことが人生の全てだという価値観をもともと持っていた世代の上司像として描いてしまっている。

話をまとめると、、、、

この10年、特にこの5年、全てのドラマを見ているわけではないが、多くのテレビドラマにおいて、「リアルな若者像」が描けなくなっているなあ(昔の若者像が今の若者像として描かれている)、と大変残念に感じて過ごしてきたが、ドラマとしては面白いこのドラマでさえ、時代性に合ったテーマを選んでいるこのドラマでさえ、結局、「新しい若者像」を描けていないことが大変残念に感じた。

あのクドカンでさえ、「ゆとりですが、何か?」で、ゆとり世代を「ゆとりモンスター」としてしか描けなかったが、このドラマでもそれと同じことを感じた。(つまり、昔の若者の方が率としてはモンスターが絶対に多かったはず。今の若者はシャットダウン型だから、上の世代が理解するのは難しくなっているかもしれないが、モンスター化する子は上の世代が若者だった頃と比べると絶対に減っているはず。)

テレビドラマの魅力の一つに「共感」がある。

リアルな若者がドラマで描けなければ、当然、「若者のドラマ離れ」は起こる。

「月9離れ」だって、ずっと「若者と言えば恋愛でしょ」という昭和・平成型のステレオタイプの若者を描き続けたために起こってしまった面があると思う(最近の月9は若者と恋愛を捨て、中年をターゲットに移し調子が戻ってきているが)。

まあ、テレビが視聴者として数の減った若者を本気で見なくなってから10年経つ、ということで全てが言い表せてしまうのかもしれない。

視聴者としての人口が少なくても、未来の中心の視聴者である今の若者を切り捨てず、きちんと彼らを楽しませて欲しいなあ、その方がそのメディアの未来につながるのにと、「テレビ」も「若者」も大好きな立場としては思った次第。

でも、このドラマの物語自体も、吉高由里子さんも大好きなので、このドラマは違和感を感じながら見続けようと思う。