【僕が人狼をするということ】
夜。人狼はどう考えるだろうか。
狂人が生きていればPPだ。狂人は噛みたくない。
そうすると、ノエルに決定票を打っている僕は、森本さんを信用していないと口ではいいながら、残される存在になる。
あとは狼の生存数。3狼生きていればPPだ。
僕は推理で3狼が生きていると思っている。
人狼は推理で僕を狂人ではないかと考えている。
だがお互いに決め手にかける。開口一番PP宣言はできないのだ。
夜が明けた。肩は叩かれない。
襲撃を示すスクリーンには、真占いのデイジーの姿が映っていた。
人狼陣営は森本さんを窮地に追い込ませても、真占いを襲撃する事を選んだ。
これが何を意味するのか、その時の僕には、まだわからない。
4日目参加者
【マドック、古川、メアリ、児玉、森本、大野、イシイ】
イシイさんがため息をついた。
「森本さん、説明を」
森本さんは立ち上がって必死に説明をする。
「噛まれたからといって狂人ですよ、それで、マドックさんが人間でした……!」
これにより森本さん目線では、僕、メアリさん、児玉さん、大野さんの中に最大2狼という構図になった。しかし、デイジーが噛まれた衝撃は大きく、決め打ちしてもらえる雰囲気ではない。
そこに、突然マドックが割って入る。
「森本をかばいたい気持ちが今あって」
……???
風向きが変わった。マドックは、なぜデイジーを襲うのか、森本さんは偽物だとして何者なんだ、という主張だ。
そんなマドックの主張を、メアリさんがおかしいと問い詰める。マドックは数の違和感があると言い返す。
……意外にも、森本さんを処刑しておこうという話にならない。
児玉さんが僕に話を振る。
「古川さん、今どう思ってます?」
これが、人狼からの合図なのではないかと思った。
児玉さんは僕目線、相当人狼だ。そして児玉さんはおそらく僕の狂人に気づいている。マドック-メアリの言い合いを制して僕に話を振ったのは、狂人に出てきて欲しいという合図なのではないか。
3狼いるのかわからないが、僕の推理では3狼いる。
ただ、ここで僕が狂人COをしてそれが信じられてしまえば、森本さんは破綻する(森本さん目線の狂人はデイジー)。
2狼しかいなかったら、みすみす人外を2人も露呈させるのは致命的だ。
何とか狂人である事を伝えて、勝ちへつなげたい。
……そこで、1つの案が浮かんだ。
「ちょっと教えて欲しい事があるんですよ。昨日ノエルに投票した人」
はい、と言って、メアリさん、児玉さん、イシイさんが集まって来る。
投票してないのはマドックと大野さんだ。
「この人達が人間で、マドックと大野さんが人狼だと思います」
僕のこの言葉に、マドックが噛み付く。
「いや、そっちの方が怪しい状況だろ、ノエルに投票した方が!」
「森本さんが狂人で、デイジーが真。森本さんが誤爆してノエルが人狼だと思います」
「なんで!?誤爆を信じてたやつらが正義なの!?」
……これ以上、間違った村人のふりをして誘導するは無理。
そして、何くわぬ顔をして投票を間違う最後もやりたくない!
僕は考えていた行動を、とる事にした。
「俺が霊媒師だから!!!」
「はぁーーーー!???」
一瞬の静寂の後、マドックの叫び声が合図になって、客席からどよめきが起こる。その声の正体は、絶対偽だと思ったものかもしれない、一筋の希望だと思ったかもしれない、それでも良い。僕には作れないと思いこんでいた「わくわくする時間」を、少しでも作りたい。狂人である事を、人狼についに通達する!
「ノエルは人狼だった!」
ガッツポーズをした児玉さんが声をあげながら僕と肩を組みにやってくる。おそらく、児玉さんは自分の推理が合っていた事を僕に伝えにきてくれた人狼。そしてこのまま押し切るという、最終戦闘のポーズだ。
「こんな奴、絶対偽物だろ!」
マドックが今日一番の威勢で僕に詰め寄る。
舞台上のボルテージが上がっていくのがわかる。
熱をあげさせているのはマドック。僕はその人とこの舞台でどれだけのものをこの後作れるのか。
大野さん、メアリさんが状況を整理しようと意見を出す。僕に偽と言われた森本さんが必死に弁明を始める。
1分前。そのアナウンスを聞いて、舞台を歩き回っていたマドックが、熱弁をふるう森本さんに歩み寄り、その肩に手を置いた。
「じゃあ森本、決定的な事を言うな?」
マドックが振り返り、僕の方を見た。
「古川は絶対に狂人なんだ!」
この場面で、僕が「絶対に狂人」と言い切れる村人はいるだろうか。
僕は自分の正体を言い当てられた事で、失望ではなく、1つの希望を抱いた。
「なぜならノエルは人間だから!」
僕が狂人である事、そしてノエルが人間である事を知っている人物……それは……
「なぜなら、私と児玉と森本が人狼で……」
いや最後の人狼そこなのかよ!
森本さんに入れたらわかんねーよ!
でもこんなの村人のブラフでは言えないよ!
だから迷わないように教えてくれた、最後のご主人。
エンターテイメント人狼の第一人者、マドックとの邂逅。
そしてやはり全てを見抜いて陰でコントロールをしていたであろう、帝王・児玉健。
「古川が狂人だからだ!」
「よせよせよせ!」
マドックが全てを言い切るのに被せるように、僕が前に出た。
いわゆるパワープレー。このまま1分間、やったー!と言って人外4人で手をつないで過ごしたって良い。
だけど僕はやりたかった。マドックとのあと1分しかないこの時間を。
4年前、僕に人狼を教えてくれたマドック。
それ以来、2人はいつも近くにいたのに、一度も舞台の上で人狼をする事はなかった。
それはアルティメット人狼はもちろん、どのイベントでも、どの放送でもだ。僕たちが共演していない事に気づいていない人がほとんどだったほど、僕たちは近くにいるのに、すれ違い続けた。
よく考えれば、試合はすんなり終わらせるべきなのかもしれない。
でも、この時の僕はもう頭と体が動いてしまっていた。残り1分、見ている人が悩みながらニヤけたり、息を飲んだりしてもらうために。正体を明かした時に、マドックがかつて「これが人狼TLPTだ!」と叫んだ時と同じ気持ちを味わってもらうために。
ノイマンとして出会えなかったマドックと、ようやく出会えたんだ!
「みんな、騙されちゃいけない」
マドックが待つ舞台前方に出ていく。
それを見てすべてを理解した児玉さんが
「俺も人狼じゃないし」
と後押しをしてくれた。
マドックを指さす。
「それじゃあお前目線、大野は人間だな。それなら人狼であるお前は今日大野に投票できるはずだ」
真霊媒師の僕ならきっとこう言うはずだ。
僕の推理は、大野さんとマドックが人狼というものだから。
マドックに合わせるかのように、僕の語気が強くなっていく。あらためて、松崎史也ではなく、医師・マドックと対峙している自分を感じる。彼は常にストーリーを紡ぎ、演じてきた。この試合中もずっとだ。
その煽りをくらって呼び捨てにされる大野さん。バンナムの偉い人なのに、この扱いは何なんだ。反省しなさい。はい。すみませんでした。
児玉さんは森本さんに詰め寄る。
「大野さんに投票できるんですか?」
「大野さんはだって、人狼だもん」
全人狼が乗ってくれてる。面白くするから許されろ!最後の数秒、駆けこめ~!!!!!
「それならば大野に投票できるはずだ!」
マドックを改めて指さす。ゆっくりその指に向かって詰め寄って来るマドック。
「できる!!!!」
「ならやってみろよ!!!!」
村は混乱していた。客席からはどよめきが起きたかと思えば、笑い声が響いたり、とにかくめちゃくちゃな、ワチャワチャな時間が過ぎていた。
「私は、児玉と森本と私が人狼で、古川が狂人だと主張したのだが、全員に否定され孤立している」
マドックの呆れたような言葉に、会場からは拍手と笑いが起きていた。
議論時間は終了。そのまま投票の時間となった。
僕は1票目、大野さんに票を入れた。
最後まで、霊媒師としての推理は崩さなかった。これがこのゲームに対する自分なりの答えだった。
2票目に森本さんが入れ、3票目の投票棒をマドックが持った。
「古川、児玉、はぁーーー!?」
こちらに一瞥をくれながら、足は大野さんの元へ向かった。
4票目、児玉さんが総括をするように歩き出した。
「古川さんが狂人だったら強い。人狼を当てたり、村人を当てたりできる古川さんが狂人だったらマジで強いけど……」
児玉さんがこちらを見る。僕はこれが人狼からのサンキューの言葉だったと今でも勝手に思っている。正面に向き直り、突然真顔になった児玉さんは小さく「大野さん」とつぶやき、決定票を入れた。
その後、もう覆らない投票という事もあり、大野さんには全票が集まった。意外にも舞台上に「パワープレーかぁ……」という雰囲気は無かった。僕は最後に大野さんから「お見事」と一言添えて、1票をもらった。
こうして、僕のアルティメット10は終了した。
人狼の勝利を告げるアナウンスに、森本さんが「がおー」と呼応する。
僕と児玉さんが中央で握手するのを見たマドックが
「何か入れないな~!」
とふてくされる。
嫌がるマドックに手を出し続けたら、やわらかな表情に変わり、手を握り返してくれた。
アルティメット人狼の黎明期から第一線で支え続けてきたゲームクリエイター。その中心人物の1人である、森本茂樹。
同じく人狼TLPTの中心にいて、「魅せる人狼」を日本中に認知させた男、医師・マドック。
そして、今の人狼ブームの一端を担っている事は誰の目から見ても明らかでありながら、奢る事なく新しい楽しさを求め続けるミスター人狼ゲーム・児玉健。
明らかになったご主人3人は、まさに僕が仕えたかった人達だ。
この「アルティメット人狼」が10回まで続いたのは、この人達がいたおかげだ。
人狼ゲームを見たくなるのは、上手さだけではない。面白さ、愛されるキャラクター、掛け合いの妙、ドラマ、そんなものが見る人達を熱くさせる。
それを教わり、遅まきながら「7」で初出演をした新参者の僕。
立派な「人狼」である彼らの足元にも及ばないが、「狂人」として彼らを支えたい。
それは僕がこのコンテンツに対して思っていた気持ちそのものだった。
舞台に立って、ただ人狼ゲームをする。それだけじゃダメだと気づいてから、強くなる事と、見ている人に喜んでもらう事の狭間で悩み続けた。いつも先人たちは眩しく、それぞれの「答え」を持っているようにも見えた。
最初に出会ったのが児玉健であり、マドック、メイソン、サミー、ハイラムであった僕のラッキーな人狼人生は、彼らや、それを取り巻く多数の魅力的な人々に憧れ、いつか追いつきたいと思いながら必死で歩んだ日々だった。
舞台上では答え合わせが行われた。
霊媒師は潜伏していた安西さんで、後で聞くと児玉さんがそれを気取って襲撃したらしい。
騎士は初日に処刑された中田さん。それを聞いた村中さんの悔しそうな顔が印象的だった。
最後、いわゆる13番席に座っていたイシイさんがマイクを持つ。
「いやー気持ち良いですね、最終試合、完全敗北。イシイジロウ、最終試合は村人でした。」
深く頭を下げたイシイさんに、惜しみない拍手が送られた。
その後、MVP投票では僕が選ばれた。
これは謙遜でも無く冷静に言うことなのだが、今回の試合、ゲームとして勝ちを作ったのは人狼の3人である。僕はそれを少しサポートしてきたが、吊られそうになったのが生き残ったり、霊媒師が抜けていたり、いわゆる「ラッキー」が重なって最後の状況が生まれた。
その状況で僕は少しだけ面白い事をしたくなって、やってまった、それだけなのだ。
これは過去の自分への戒めにもなった。
MVPは勝利に貢献した人に贈って欲しいと常に思っていた。ただ、最終的に人々の印象に残るのは、勝利を決定づけた人とは限らない。そして、勝利を決定づける以外にも、ゲームに貢献できる事がある。
マドックの事、とろろちゃんの事、色々考えた結果もらえた、今までの自分では取れないMVP。
僕はこのMVPを、とても大切にしようと思った。
アルティメット人狼10の主宰者4人からの言葉も含め、舞台の最後の挨拶のシーンとなった。僕は眞形さん、児玉さん、イシイさんの言葉に、ついつい涙してしまった。これは僕が稚拙な文章で伝えるのも申し訳ないので、是非タイムシフトを見て欲しい。
桜庭さんが自分の挨拶の時間を使って、3部の出演者に挨拶させて下さった。それぞれがこの10回行われたアメティメット人狼というコンテンツに対する思いを紡いでいった。
僕はMVPという理由で、最後に挨拶をさせてもらった。
主宰者の挨拶から涙していた事もあり、お聞き苦しいお話となってしまったが、今ここに記した事の100分の1くらいをギュッと縮めて伝えたつもりだ。
そして最後に、どうしても言いたい事を言って、終わりとする事にした。
「ヌキさん、こくじんさん、ハイブリさん、スナパイさん、まっくん、健志、飴猫、やったよ! ありがとうー!!!」
僕を見つけてくれたアメティメット人狼に。
僕を育ててくれた人狼最大トーナメントに。
そしてその他の人狼放送やイベントに。心からの感謝を。
最後に送られた歓声の中に、はっきりと観客席のヌキさんの声が聞こえた。
人狼を日本中に届ける人達に、番組の垣根なんてもったいない。
2人でアルティメット10に向けて練習を積んできた日々を思い出して、僕は今一度、深く頭を下げた。
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以上、長くなり(そして途中、ずいぶんと長い休載期間があり)ましたが、アルティメット10-6の参戦記は完結となります。皆さん最後までお読み頂き、ありがとうございました。
こうして改めて振り返り、文章として記してみることで、自分の未熟さなどを認識するとともに、自分がMVPを取った回の振り返りはやけに自己満日記っぽくなってしまい、終盤何だか書くのが恥ずかしくなってしまいました(笑)無料記事という一点だけで、笑って許して頂けたら幸いです。
この後、みんなで集合写真を撮ったのですが、体の大きな僕は最後列に立っていたんです。そしたら隣にいた兄(武中真さん)が、「古川さん、MVPなんだから、前に行きましょう」と1列前に出させてくれました。僕が女ならその日抱かれていたと思います。兄の事がもっと好きになったエピソードです。
2020年4月現在、「アルティメット人狼11」の開催はまだ予告されていません。しかし、僕たちはその日をずっと待ちながら、楽しく人狼をして遊んでいくんだと思います。
これからも皆さんに楽しい人狼ライフがありますように!
改めてお読み頂き、ありがとうございました!
(おわり)