本日は、ハングル誕生に関わる韓国の映画をご紹介します。
ハングルについてどういう印象をお持ちでしょうか。韓国語を学んだ人には馴染みがあっても、学んだことのない人には奇妙な記号のように見えるかも知れませんね。しかしハングルというのは制定された時期、関わった人物、文字の構成原理、経緯などがわかる稀有の文字なのです。いわばハングルを外して韓国・朝鮮語はもちろん、文字の成り立ちを考えることはできないくらいです。
ハングルができたのは朝鮮王朝第4代国王世宗の時代で、朝鮮を代表する名君世宗と、世宗を助けてともにハングルを作った僧侶たちの奮闘を描いた「王の願いーハングルの始まりー」(原題:나랏말싸미)をご紹介します。
朝鮮王朝第4代国王・世宗(在位:1416〜1450年)の時代は前代までの創業期の混乱が収まり、基礎が固まった時代でした。しかし朝鮮には自国の言葉をそのまま筆写できる文字がなく、支配階級のみが中国の漢字を学び使用していたのが実情でした。現状では庶民が手軽に文字を学べる状況ではありませんでした。このことを嘆いていた世宗(ソン・ガンホ)は誰にでも手軽に習得できる文字を作ることを決意、梵語など東洋の言語に詳しい和尚信眉(シンミ)(パク・ヘイル)とその弟子たちを宮中に招請し、協力を依頼しました。朝鮮王朝は公式的には儒教を尊び、仏教は抑圧された時代で、僧侶は賎民身分に落とされていたのでした。儒教の権威主義に凝り固まった臣下たちは、国王が宮中に僧侶を招き協力させるのみならず、庶民に文字を与えようとしていることに激しく抵抗します。そんな中、世宗と僧侶たちは、世の中を変えるために新たな文字を作ることに突き進んでいきます。
現在はハングルと呼ばれる文字も当時は訓民正音という名前で公布されました。従来までは集賢殿に集まった学者たちによって作られたとされていましたが、その背後には東洋の言語に通暁した優秀な僧侶たちの無私の協力があったのでした。訓民正音以後、ハングルで出版される仏書も多く、制定のみならず普及にも仏教が大きく関与していたのでした。映画の中の国王と臣下たちの対立の場面や、王家の複雑な事情も興味深いですが、映画の冒頭で、日本から来た僧侶と信眉和尚たちが梵語で意思疎通する場面や、宮廷での仏堂設置や仏事なども非常に興味深かったです。恋も活劇もありませんが、とても面白い映画でした。今までの韓流時代劇とはかなり趣が異なり、またゆっくり鑑賞したい映画のひとつになりました。