「パラサイト」「すばらしき世界」そして「ひとくず」 | あなたの知らない韓国 ー歴史、文化、旅ー

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 最近見た日本映画の中でおそらく一番強烈な印象を残した映画を紹介します。西原雄大監督「ひとくず」。貧困と児童虐待を主題にした映画で、かなり重い話題にも関わらず笑いに満ちています。

 

 

 映画はいきなりすごい場面から始まりました。映し出された一室はまるでゴミ屋敷のようにあちこちにゴミが散らかり、流しには洗い物が山のよう。その中で小学生くらいの女の子が一人。電気も止められているのか真っ暗な中でひとり。食べ物もなく、チューブに残ったマーガリンやマヨネーズを名残り惜しくなめているという悲惨な状況。両親の姿は見えず、ドアには外から錠前がかけられています。明らかに児童虐待の様相です。そんなところに見知らぬ男がベランダのガラスを破り、空巣に入ってきます。男は思いもしない部屋の状況に相当驚いた様子です。でも男はこの状況を見過ごすことが出来なかったのか、女の子を連れ出し、着替えさせ、飯を食わせ、風呂に入れ、世話を焼きます。それがきっかけにこの親子を救うことになるのですが、男や娘、娘の母親には意外な共通点があり、男も人に言えない稼業だったのです。彼らはどんな境遇で、どうなっていくのでしょうか。主人公が人にアイスクリームを勧めながらも、自分はアイスクリームは食べないというセリフがあります。彼が何故アイスクリームを食べないのかも映画のポイントです。

 

 

 

 ポン・ジュノ監督の「パラサイト」や是枝裕和監督の「万引き家族」、西川美和監督の「すばらしき世界」などと同様、社会の競争から取り残され、あえいでいる人を描いているという共通点があります。その中でもこの映画は児童虐待が主題になっており、すさまじい児童虐待の様相が描かれます。それが子に引き継がれ、繰り返されるのですが、それを繰り返させる要因はまさに貧困。貧困が犯罪や非行に走らせ、それが児童虐待につながっていく構図です。これはまさに日本社会が抱える問題と言えます。

 

 そんなことを書くと、ひたすら重くて暗い映画かと思うかもしれません。男の口からも我々が普段口にしないような汚い言葉が出て、行動は乱暴なのですが、娘親子に対してはどこか暖かさがあり、くすくす笑う場面も散りばめられています。人を不幸にするのも人ならば、思いやりを持って立ち直らせるのも人だということを示してているのでしょう。ネタバレになるのでこれ以上内容については書きませんが、映画の一番最後、3人再会する場面の笑顔は最高でした。

 

 映画の配役はほとんど初めて見るような俳優ばかり、名前が出て来るのはちょい役の田中要次と木下ほうかくらい。でも芸達者ばかりで見応えのある映画です。みんなに見て欲しい日本映画の一つです。