2017/08/10 服部の日記念企画

名探偵コナンから、平和×ふるあず×新蘭で
お届けします!

本館であるAmeと、別館であるPixiv で連動
するお話になります

10日間限定の連載です

後日、入れ替えて読めるようにしますが、
Ame 和葉ちゃん視点、Pixiv 平次視点で同時
進行します

海外ドラマの君たちは包囲された!を、平和
バージョンに大幅にアレンジしたパラレル話
ですので、苦手な方はスキップを

You're all surrounded Side A 2

第二章 トラブル発生

2017年5月某日 ~遠山和葉の記憶

捜査一課に配属されて、1ヶ月が過ぎた

捜査の方は、漸く英治のクセとかコツを掴ん
で、何とかそつなくこなせるようになっ
たんだけど…

頭痛の種がひとつ

英治が、とにかく、些細な事でもいちいち係
長に噛みつくのだ

言いつけは護らない、反抗的な態度は取ると
やりたい放題で

とにかく、パートナーの私にまで被害が及び
そうなので、毎日、英治を叱り飛ばす日々

「怒るのも、体力が要るのよね」

思わず、ひとり呟いてしまう程、私はパート
ナーの扱いに疲弊していた

おかげで、数少ないOFFの日に、例の事件を
捜査しようにも、体力切れでベッドから出ら
れないと言う状況になる日も多くなっていた

「全部、英治のせいだわ、ホンマ腹立つな」

そうは思っても、少しずつコンビらしい動き
が出来るようになった事に、喜びも覚えてい
た私やった

相変わらずぶっきらぼうで、相変わらず口が
悪くて、何を考えてんのかわからん英治

それでも、食いしん坊な一面とか、時々見せ
る拗ねたような態度に、可愛ええな、と思う
自分が居た

捜査の合間に、一緒にご飯を食べたりする事
もあるんやけど、食の好みは近いモノがあっ
たりして、せやから、苦労する事は無かった

パートナーと食の好みが違うと、ご飯ひとつ
とっても喧嘩になる事もあって、結構大事や
ねん

夜討朝駆けで一緒に飛びまわるのも、慣れて
来たんやけど、それと比例するかのように、
英治が係長へかなりの敵意をむき出しにする
ようになった

元々、その素地はあったんや

冴島さんらは気がつかんかった、言うてたけ
ど、私は着任直後から、気になっててん

みんなの前では、上手に隠しとったけど、時
々、ほんの一瞬見せる鋭い視線

工藤くんが、公安時代の英治のパートナーや
と知って、また、学生時代、探偵やった頃も
付き合いがあったと知ったのは、入庁後の事

忙しい合間を縫って、私は工藤くんに真意を
隠して、英治との事を訊いた
出会いから、どんな事件を一緒に解いて来た
んかとか、色々

「何、和葉ちゃん、惚れちゃった?」

最初はそう茶化していた工藤くんも、私が、
パートナーとの連携を強化するためにも、色
々と知っておいた方がいざと言う時に役立つ
から、と言うと、まぁ、確かに、と言うて教
えてくれた

食べ物の好みから、音楽、趣味、その他諸々

後、依頼人や事件関係者からかなりモテてい
て、女同士がトラブルを起こす事も頻繁やっ
たとか、でも、当人は全く意に介せず、

「どっちも知らんし、どっちもオレのオンナ
やないで」

と言い捨ててたとか

(あはは、英治ならそれくらい言いそうや)

まぁ、色々と楽しそうに教えてくれた工藤く
んは、ホンマは英治とのコンビ解消は少しだ
け淋しかったと言うてた

「蘭と組めたのは嬉しいんだけどさ、アイツ
とは、本当に色々苦労して来たからさ
何か、あっさり解消ってしちまって、ちょっ
とだけ惜しかったな、と思う部分もあるんだ」

「大丈夫や、工藤くん
刑事を辞めん限り、道は続いてんねん
諦めん限り、また、一緒に捜査出来る時は来
ると思うで?」

「そうかな?」

「きっと」

「じゃあ、和葉姉ちゃんの言葉、信じて見る
かー」

「うわあ、懐かしいな、その呼び方
いつの間にか、和葉ちゃん呼びに変わったも
んなぁ?」

「だって、そうでもしねーと、蘭って呼びに
くかったしさ」

少し照れた顔をする工藤くんは、ホンマに昔
から蘭ちゃん一筋や

蘭ちゃんが、自身の父親が以前刑事やったか
ら、自分もその道に行くと言い出した時は、
蘭ちゃんのお父ちゃんと一緒になって反対し
とったけど

蘭ちゃんが、本気やとわかると、熱心に説得
するのを手伝ってくれたばかりか

「オレも刑事になる、それで、蘭とパートナ
ーを組んで、頑張るから」

と言って、最後まで渋ったおっちゃんを説得
したと蘭ちゃんから訊いている

せやから、入庁して蘭ちゃんが指令センター
勤務になった時は、おっちゃん共々ホッとし
とったらしいねん

有言実行で、探偵ではなく、警視庁の刑事を
目指した工藤くんが入庁を決めた時は、私も
蘭ちゃんと一緒に合格祝いをしてあげた

でも、工藤くんとはそんなに頻繁に逢えてい
たワケや無いから、まさか英治と組んで大学
時代、探偵として飛び回っていた事も、その
後、公安でバディを組んでいた事も、私は知
らんかったんや

人の縁って、不思議やな、と思う

どこで、どうやって繋がってんのか
誰もわからんのに、時として、導かれる事が
あるんやもんね

毎日、事件を追いかけて
毎日、次の事件が発生して

私らの仕事に、休暇と言う文字は殆ど無い

事件を追い続ける毎日に、私は少し焦り始め
ていた

平次のあの事件を、追うための時間を捻出出
来なくなっていたのだ

事件発生から、10年が過ぎて、証拠はどん
ん風化して劣化してしまう

人の記憶だって、そうだ

あの日の事を、正確に証言出来る人は、どん
どん減っていた

中には、老齢でお亡くなりになった方も居る

せめて、自分だけは、と、毎日無理矢理あの
日の事や、その直前の日の出来事を思い返し
ては、眠れなくなる日々を過ごしていた

でも、私が忘れてしまったら
それこそ、あの事件は無かった事になってし
まう、と言う一心で、私は堪えていた

それやのに

いつものように、英治と係長の諍いが始まり
うんざりした顔の風見さんと、私が止めに入
った

そこまでは、いつも通りの諍いやった

でも、英治はいつも以上に憤っていて、いつ
もより踏み込んで、係長を非難したんや

「護る、って言うのは簡単やけど、ホンマに
最後の最後まで、証人を守りきれるんか」

英治はそう指摘したんや

ある殺人事件の証言を巡り、面通しした証人
が報復を恐れて、証言を拒否したのが発端

確かに、英治が言う通りやねん
警察で、身柄を完璧に保護する事は不可能に
近い

証言までは、徹底的にマーク出来ても、その
先は、せいぜい出来て、近隣の派出所から巡
回してもらうんが精いっぱいやねん

その殺人事件は、犯人側がえらく巧妙で、何
重にも罠が仕掛けられててん

初動捜査は、どうもその罠にかかって遅れた
らしく、警察側は物証どころか、証人確保に
躍起になってたんや

おそらく、証人にも何らかの手をまわしてく
る事は、安易に予想がついた

英治は、そんな中で、安易に護る、と言い切
った係長を責めたんや

今日は、係長の方も虫の居所が悪かったらし
くて、言い争いは、願いとは真逆にどんどん
悪化して行った

捜査から戻って来た冴島さんや沖田くんも、
何事かと止めに入った、その時やった

「2006年 大阪 服部邸殺人事件」

英治が、係長にその言葉をぶつけたんや

…何で?

愕然とした

調書には、係長や風見さんが関わっている事
は一行も書いてへんのに

どうして、英治は知ってんの?

最近、漸く理解し始めたばかりやのに、暴れ
るのを抑えるために、しがみついた英治の顔
がようわからんようになった

どうして英治がそれを知っているのか、と問
う係長と英治の争いは止まらん

止めている間に、自分の心臓が煩いくらいに
鼓動を打ち鳴らしている事に気がついた

アンタ、まさか…

ぐちゃぐちゃになる
何が、どうなってんのか、受け止め切れへん

私は、くらくらする視界を何とかとどめて、
必死に止めたけれど…ぶつかりあう2人の間
で、私の意識は限界を超えたらしい

激しい怒号が飛び交う中、誰かが誰かを殴る
音も聞こえて来た

怖い、怖い、怖い
誰か、助けて

あの豪雨の日に、意識が飛ぶ

おばちゃんと、誰かが争う映像が浮かんで
て、自分が最後に確認したおばちゃんの遺体
が目に浮かぶ

おばちゃんにさよならした日に、抱き締め
冷たい身体が、その感触が蘇る

「やめて、やめてや!いやぁああっ!」

連れて行かんで!

大事な、おばちゃん、もう、連れて行かんと
いてや!私に、返して?

平次に、返せ!

「和葉っ!」

耳を塞ぎ、しゃがみこもうとした私を、誰か
の力強い腕で引き上げられた

でも、それが怖くて、さらに沈み込む私

「大丈夫よ、和葉ちゃん」

「え?」

誰かが、私を抱きしめていた

みんな出て行け、と言いながら、背中をずっ
とさすってくれていた人

怖くて涙も流せず、呼吸も苦しい私に、自分
の呼吸に合わせて息をしろ、と言うてくれた

「遠山、大丈夫?」

「…はい、すいませんでした」

座りなさい、と言われて、ソファに座らせら
れた私

部屋を出て行った榎本係長は、戻って来ると
私の手に暖かいお茶を握らせた

「貴方も、何か特別な記憶があるの?」

「え?」

「私はあるの、10年前」

思わず、表情が固まったのを感じていた

上手く笑えていない事は、自分が一番良く
かっていた

「子供を亡くしたの」

何も言えず、見つめる私に、スーツのポケ
トから手帳を出して見せてくれた

「可愛ええ…」

「そうでしょう?実物は、もっと可愛かった
のよ?」

零さんも、私も、力の限り、愛していた
大事な、大事な、小さな生命

「私なりに、愛してた
子育ては戦争みたいで、大変だったけど、そ
れでも喜びも、たくさんあったわ」

写真の中で、カメラに向かって笑っている子
供は、めっちゃ愛らしかった

この生命が、この世に存在しないとは、とて
も思えないくらい、写真の中で笑う子供は、
生命力の塊みたいやった

育休明け直後だったの、と呟いた榎本係長

偶々、迎えの調整が失敗して、いつもよりも
遅くなってしまった、と

「保育園もね、迎えの対応やら何やらで、ち
ょうど、どたばたしていた時みたいなの」

隙をついて、園を抜け出してしまったらしい
子供は、迎えに来ない両親を探し求めて、道
路に出てしまったらしい

事故発生の連絡を受け、研修を途中で抜け出
し駆け付けた病院で、冷たい子供と対面した
と言う榎本係長

「朝、抱き締めた時はね、熱でもあるんじゃ
ないかって言うくらい、体温があったのに」

どんなに抱いても、温まらない小さな身体
どんなに呼んでも、目を覚まさない顔

「ママよ、空って、何度も言うんだけど
ちっとも起きてもらえなかった」

柔らかな笑みは、とても悲しそうやった

こんなに愛らしい一人息子を亡くすやなんて
どれ程辛かったんやろうか、と思う

私は、調べる中で、降谷係長夫妻が一人息子
を亡くした事を知っていた

でも、情報として知ってただけで、それがど
れ程ツライ事で、苦しい事かって言う事まで
はちゃんと理解出来てへんかった

「スンマセン、辛い事、思い出させてしもう
たりして」

「ううん、いいの
誰かに話して、少しは楽になる事もあると、
私はそう、信じているから」

そう思えるようになるまで、10年もかかっ
てしまったわ、と微笑んだ

この人も、私と同じくらい、もしかしたら
それ以上の修羅の道を歩いて来たんやろう

愛する人との子供を失い
愛する人との生活を捨てて

それが、どれ程の苦悩を伴ったかを想像する
事しか出来んけど、それが、どれ程苦しかっ
たかは、少しは理解、出来ると思うた

私なんて、こんなにぐちゃぐちゃやのに、係
長は凛として頑張っている

まだまだやな、自分、と思うた

あの事件の名前を出されたくらいで、こんな
に動揺しとる場合やないで、と

「ありがとうございました、少し、楽になり
ました」

もう、大丈夫です、と言うと、それは良かっ
たと微笑んだ榎本係長は、優しい笑顔やった

[newpage]


「ただいまー」

「おかえりなさい」

誰も居らんと思うて帰って来た部屋には、め
ずらしく志保さんが居った

シャワーを浴びて、これから職場に戻ると言
う志保さんと、久しぶりにキッチンに一緒に
立って、食事をした

「どう、慣れた?」

「うん、でも、まぁ、一難去って、また一難
ってとこかな」

「そう」

その後は、最近全然行けていない買い物の話
だとか、好きなアーティストの話だとか、ご
く普通の女の子同士の会話を楽しんで、私は
これからまた研究所に戻ると言う志保さんを
見送った

お風呂に入って、志保さんが修正してくれた
例のプログラムを試そうと、自室で机に向か
いテストを始めた

いくつか、アドバイスをもらっていたので、
それに沿ってプログラムに修正をかけては、
テストを繰り返して見た

格段に精度が上がったのを実感する

自分の写真で試したが、90%の精度で調整
が出来ていた

年齢も、性別もバラバラにしてテストを繰
返してみても、問題無く稼働した

「やった!!」

嬉しくなって、一番、試してみたかったある人の写真をスキャンして取りこんで、試して
みた

…え?

全身の、血の気が引く思いがした

どうして、何で、どうしてこんな結果に?

もう一度、自分の写真や年代が同じくらい
男の子の写真で試してみた

何度やり直しても、結果は同じやった

平次が、失踪する直前に一緒に撮った写真
ら、平次の顔を現在の年齢に合わせて、プロ
グラムを作動させ修正をかけてみた

それやのに、推定で表示された顔は、最近
の時間の多くを共に過ごしている人の顔にと
てもよう似てんねん

何遍やりかえしても、結果は同じ

鳥蓮英治 24歳に、とてもよう似た顔になんねん

英治はいつもメガネをかけていて、メガネ
しの顔は見た事が無い

でも、確かめなアカン

翌朝、私は誰も登庁してへんやろと思うよう
な早朝に職場に向かい、自分の疑念を晴らそ
うとしたんやけど

誰も居らんはずの部屋には、英治が居た

何やら証拠物件と睨めっこしとって、私が
内に入った事にも、気がつかん様子で

声をかけると、酷く驚いた顔をした

…間違いない、平次や

混乱する頭を、爆発しそうな心臓を必死で
えて声にした

平次、アンタ、平次やろ、と

違う、と否定する英治を問い詰めた

絶対に、アンタは平次やって

何やら慌てた英治が、いきなり私に覆い被さ
るようにして、顔を寄せた

…は?

自分が、何をされとんのか、わからんかった
けど、自分のモノでは無い熱で唇を塞がれて
いる事は、頭の片隅で理解出来た

アンタは、誰?
鳥蓮英治、アンタ、一体、何モノなん?

茫然とする私は、暫くそのまま立ち尽くして
いた

[newpage]

2017年5月某日 ~榎本梓の記憶


零さんも、私も、新人育成に手を焼いた1ヶ
月が過ぎた

幸い、一足早く、うちのチームの方がどうに
か形になりつつあったけれど
零さんのチームは、とにかく、荒れていた

台風の目は、鳥蓮英治、その人だった

とにかく、何かにつけて零さんを目の敵にし
ているらしく、風見くんがよくぼやきに来る
ようになっていた

「また、今日も?」

「ええ、そうなんですよ
おかげで、降谷さん、絶好調で機嫌悪いし」

オレ、たまりませんよ、と泣きごとを言う
でも、私は知っている

彼はいつもそう言いながらも、零さんを尊敬
しているし、信じていると言う事を

だから、文句を言いながらも、結局、手伝っ
てくれるのだ

「大変ね、風見くんも」

「本当ですよ!最近、鳥蓮、オレに対しても
敵意むき出して、困ってるんですよ」

「あら、風見くんまで?」

「多分」

「多分?」

「はい、降谷さん程ではありませんけどね
棘は感じてますよ」

うーん、と笑った

「でも、話を聞く限り、鳥蓮は全体的にみん
なに対してそうなワケじゃないのね?」

「はい、冴島とか沖田とか、6係の工藤とか
毛利、黒羽とはそれなりに付き合ってるみた
いですね」

「相棒の遠山とはどうなの?」

「遠山の方が、遠慮会釈なく、どつき倒し
いるってところでしょうか」

「あはは、何なの、それ」

風見くんが教えてくれた

対立する2人の間に立って、喧嘩を抑えてい
るのは、遠山だと

そのすぐ後の事だった

いつものように、鳥蓮が零さんに喰ってかか
り、虫の居所が悪かったのか、零さんがまと
もに受けて立ってしまい、大騒動になった

止めに入っていた遠山が、鳥蓮が零さんにぶ
つけたある事件名で、パニックを起こした

全員を追い出して、私は遠山と2人になって
自分と息子の話をした

遠山の心の傷は、同じ思いをしたモノにしか
わからないと思ったから

零さんの資料を読んでいて、遠山が母親のよ
うに慕っていた人との別れに、どれ程傷つい
ているのかを、私は理解出来たから

調書にあったのだ

抱き締められない息子に代わって、自分が抱
き締めた、と

愛する人を、その亡きがらを抱き締めた時の
切なさや哀しみは、筆舌に尽くしがたいもの
がある

それを、大人だった私でさえ、現在でも苦し
いと言うのに、たった15歳だった遠山はど
れ程苦しかった事か

遠山は、自分の事は話してくれなかったけど
自分なりに気持ちの整理は出来たようで、部
屋を出て行く時は、落ち着きを取り戻してい
たけれど

胸に、時限爆弾を抱えているようだと思った
彼女にとって、あの事件はまだ生きている

決して、過去の事件などでは無い

だから、戻って来た男を叱りつけた
不用意に、あの事件の名前を彼女の前で曝け
出すなと

鳥蓮は、珍しく神妙な顔をしていた

パニックを起こした遠山に、腕を払われたそ
の時の、所在なげな顔を忘れられない

零さんも同じような顔をしていた

きっと彼は、責めているのだ
あの時と同じように、自分自身の事を

夜、水筒をぶら下げて私のチームの部屋にや
って来た零さん

仕事をしながら話をしていると、工藤と毛利
ペアが戻って来て、私たちが知らない話を教
えてくれた

毛利は、中学生の時の遠山と知り合いだった
と言うのだ

事件の前の彼女の顔も、事件の後の彼女の事
も知っていたけれど、あの事件の事は知らな
かった

夜勤の2人を残して、私は零さんと話をした
出張ついでに、私が調べてくる、と

猶予は1日しか無いけれど、出来る限りの事
はして来ようと、私はある人にアポを取った

翌日、既に先乗りしている風見くんと合流す
るために、私は帰宅した

「梓さん」

駐車場で、声を掛けられた

「あら、志保ちゃん」

宮野捜査一課長の実妹で、最年少で科捜研の
所長に就任した、天才科学者

同じ歳だと言う事で、宮野さんに紹介されて
からずっと仲良くさせてもらっている

そう言えば、彼女、遠山と同居中のはずだ

「少しだけ、時間、ある?」

「ええ、もう帰るだけだったし」

彼女に誘われて、私は科捜研に立ち寄る事に
して、彼女の執務室へと入った

「梓さんも、めちゃくちゃ忙しそうね」

ふふっと笑う顔は、お姉さんよりは少し幼さ
が残る笑顔だった

「ええ、それなりに」

「新人教育、苦労してるんでしょう?」

「ええ、それはもう」

ま、零さんのところ程では無いけどね、と言
うと、やっぱりそうか、と笑った

「そう言えば、一度訊いてみたかったんだけ
ど…」

遠山とは、昔からの知り合いだったのか、と
尋ねた

「いいえ、1、2年くらい前かな、お姉ちゃ
んが大阪に出向いて事件にあたってた頃があ
って、その時に、めちゃくちゃ良い子が居た
って、大喜びして帰って来た事があったの」

「大阪か」

「ええ、姉達は、土地勘も無くて色々苦戦し
たみたいなんだけど」

そんな時に、道案内から府警の刑事達との間
を繋いだりしてくれたのが、遠山だったらし
いと言う

「お姉ちゃんは無事、犯人を検挙して、帰っ
て来られたんだけど、あぁ言う刑事がもっと
たくさん居たらいいなぁって」

お姉ちゃんがそんなに手放しで喜ぶのは、と
ても珍しかったから、なんとなく名前は覚え
ていたんだけど

そう言うと、コーヒーに口をつけた志保ちゃ
んだった

宮野姉妹と私と零さんの付き合いは長い

10年前にはもう知り合いだった私たち

お互い忙しいから、頻繁に遊ぶのは無理だっ
たけど、おいしいお酒を飲みに行ったり、食
べに行ったり、買い物に行くなど、私と志保
ちゃんは年齢も同じだった事もあって、良く
一緒に遊んでいた

「梓さん、うちのお姉ちゃん、元気にしてる
のかな?」

「え?」

「家を出てからね、あんまり連絡が取れなく
て、ここ1ヶ月は音信不通なの」

「そうなの?
元気にバリバリ働いてるよ?
とは言え、私も毎日逢えているわけじゃ無い
んだけどね」

さすがに一課長ともなると、壮大な人数を束
ねて事件捜査の進捗も総て把握していなけれ
ばならず、飛び回っているので、プライベー
トな時間はあまり無いはずだ

元気だったら、それで良いんだけど、と言う
志保ちゃんは、少しだけ不安そうな顔をして
いた

その後は、久しぶりのガールズトークを少し
楽しんで、私は翌朝の出張に備え、志保ちゃ
んの城を後にした

[newpage]

ふわぁ、と思わずあくびが出る

「お疲れですね、榎本係長」

くすくすと笑う風見くんを軽く殴って、私は
歩き始めた

5月だと言うのに、少し暑い

くらくらしそうな日差しの下、私は風見くん
の案内で、府警までの道を歩いていた

府警で、大滝本部長と対面した

「和葉ちゃん、元気にしてますか?」

「はい、活躍してますよ」

「そうですか、そうでしょう」

心底嬉しそうな顔をした

「遠山のおやっさんが生きてたら、どれだ
喜んだか」

そう言うと、涙ぐんでいた

「遠山刑事のお父様は…」

「はい、元本部長で殉職された、遠山銀司郎
ですよ」

私に刑事のイロハから全部を教えてくれた
大事な人です、と言うと、壁を見上げた

壁にずらり、と並ぶ歴代の本部長の写真の
で、すぐにわかった
雰囲気が、遠山に似ていたからだ

「良い男でしょう?男前だったんですよ?
外見も、中身もね」

「大滝本部長は、遠山家とは・・・」

「はい、家族ぐるみでの付き合いでした
せやから、ワシは、実はおやっさんよりも
に、生まれたばかりの和葉ちゃん、抱っこし
たんですわ」

そう言うと、嬉しそうな顔をして、奥から
ルバムを出して来た

刑事時代の大滝本部長と遠山元本部長が並び
笑顔で収まるその写真

ゴツい大滝本部長が、真っ白な小さな赤ちゃ
んを腕に抱いて、男泣きしている写真

その後も、可愛いい女の子は、至るところに
顔を出していて

遠山元本部長の、警察葬の様子もあった

遺影を抱える母親の後ろを、喪服姿の美しい人に抱かれて、移動する幼い遠山の姿が在る

「和葉ちゃんを抱っこしとんのが、服部邸殺人事件で犠牲になった静さんや」

この時、静さんの腹に居ったんが、平ちゃんやねん

「「えっ!」」

言われて見れば、遠山を抱える事で隠してい
るようにも見えるけれど

「遠山のおやっさんも、平ちゃんの誕生を、
それはもう楽しみにしとってなぁ」

名前を付けたのは、遠山の父親だと言う

「あの、遠山家と服部家は、そんなに付き合
いが深かったんですか?」

「ええ、それはもう」

元々は、遠山の母親と、服部邸殺人事件で犠
牲になった服部静華が中学生の時に知り合い、親友になったところからスタートしてい
るらしい

「おやっさんは、中学生の時、京都から引越して来て、奥さんに一目惚れやったって」

中学、高校、大学と、当時、静華が交際して
いた相手も含め、4人で仲が良かったらしい

静華の服部家は、名家で、代々華麗な経歴を
築いた一族だったらしいが、静華の両親が相次いで亡くなり、静華自身に奇禍が降りかか
る頃には、もう誰も居ない状況になったとか

「遠山家は、おやっさんが実家と縁を切り、
結婚するにあたり、手切れ金として受けた資本を元に、服部邸の隣を買い取ったんや」

遠山家は、京都では名の知られた商家で、現
在もかなり手広く商売をしていて、老舗の店舗から、時代にあわせた流行の店まで、どこ
かで耳にしたような店名ばかりだった

「おやっさん、実家の勧める縁談蹴ってしもうたんや」

オマケに、家業も継がないと言うので、説得
を諦めた両親が、生前贈与として金で縁を切り捨てたのだと言う

「おやっさんが亡くなった後、一人娘の和葉
ちゃんを巡って、何度か騒ぎもあったんや」

誘拐紛いの手口で連れ去られた事もあるらし
いが、ずっと子供が出来なかった長男夫婦に
子供が誕生すると、パタリと止んだらしい 

酷い話だと思った

「あの、ところで平次くんは?」

「わからんのです」

遠山氏は、知っていたらしいが、最後まで口を閉ざしたし、静華さんも、誰にも公表せず
ひとりで産んだらしい

どちらも現在は鬼籍の人だ

「和美さん、あ、和葉ちゃんの母で、現在の
科捜研所長なんですけど、彼女は、ホンマに
知らんらしいんですわ」

ただ、親友が恋愛に悩み苦しんでいたのは、
知っていたが、最後まで、教えてはもらえんかった、と言うてて、と

「そうですか」

その後も、時間いっぱい、大滝本部長は色々
な話を惜しみなくしてくれた

風見くんと礼を述べて退出しようとした私に
言った

府警にとって、ワシにとって、和葉ちゃんは
宝物であり、絶対に、幸せにせなアカン娘や

くれぐれも、大切に育ててください、と

もし、東京でもうええ、言う時は、必ず帰し
て下さい、と

「わかりました
遠山刑事の上司にも、必ず伝えます」

風見くんは、思いがけず知り得た情報を整理
して、先に遠山家の本家周辺を探りに京都に
向かうと言うので、私は単独でアポを取って
いた方の元へ向かう事となった

第3章へ、
to be continued